研究実績の概要 |
本研究は腎癌に対するmTOR阻害薬の新たな標的分子を発見することで、抗腫瘍効果の作用機序の解明や抵抗性の克服を目的として行った。 平成27年度はmTOR阻害薬としてエベロリムス、テムシロリムスと、腎癌細胞株としてはCaki-1、786-O、ACHN、A498を用いて、WST-8法でそれぞれの薬剤感受性を調べた。その結果、mTOR阻害薬の種類による感受性の違い、細胞株による感受性の違いが確認できた。次にカルボキシル基を持った、ナノ磁性ビーズを用いて、mTOR阻害薬結合ビーズを作製した。この薬剤結合ビーズと、感受性の違いが顕著であった細胞株2種類を用いて、mTOR阻害薬結合蛋白を精製した。これらを比較し、薬剤、細胞間で共通に結合する蛋白や結合に差がある蛋白を確認し、MALDI-TOF質量分析法を用いて解析、4種の蛋白を同定した。これらは、βactin, RPS18, C1QBP, PHBであった。 平成28年度は文献検索によりmTOR阻害薬の抗腫瘍効果に関連があると考えられた、C1QBP、PHB1について検討を行った。薬剤結合蛋白中にウエスタンブロット法で両者が存在することを確認した。次に2種類の腎癌細胞株にRNAiの手法を用い、それぞれの発現抑制を行い、mRNAあるいは蛋白レベルで発現抑制を確認した。これらの発現抑制された腎癌細胞株をmTOR阻害薬で処理することで、mTOR阻害薬の細胞増殖抑制効果に差が出るかをWST-8法で検討した。その結果、C1QBP、PHB1の発現抑制でエベロリムス、テムシロリムスの細胞増殖抑制効果に明らかな影響が見られなかった。 これらの結果より、腎癌細胞株(786-O, Caki-1)においてmTOR阻害薬とC1QBP、PHB1が結合していると考えられたが、mTOR阻害薬の効果への関与は認めなかった。今後は他の結合蛋白の探索やRPS18の影響を検討する。
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