本研究は、膀胱癌に生じる酸化ストレスと遺伝子発現異常を標的とした新規抗癌剤の有効性を検討することを目的とする。酸化ストレスに長期的に暴露された結果細胞内に蓄積するAGEs(糖化最終産物)が、腫瘍増殖を助長する遺伝子発現を増加させるだけでなく、クロマチン構造を変化させ、エピジェネティクスを介した遺伝子発現異常を引き起こす可能性を見いだした。本研究ではAGEs形成抑制作用をもつメトホルミンとDNAメチル基転移酵素(DNMTs)阻害剤である5-aza-CdR併用による膀胱癌に対する抗腫瘍効果を検討する。 1) AGEsによるヒストン制御機構を検討するため、酸化ストレスの指標となるAGEs、カルボキシメチルリジン(CML)のヒストンに結合するポロクローナル抗体、抗CMLH3K27を作成した。 2) in vitroの検討 細胞内のAGEsを上昇(グリオキサール処理)あるいは低下(メトホルミン処理)させ、5-aza-CdRによる抗腫瘍効果とp16のメチル化頻度を検討した。低AGEs濃度下では5-aza-CdR処理により癌細胞の増殖は抑制し、またp16のメチル化頻度の低下と発現上昇を認めた。 3) 臨床試料の検討 経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行した膀胱癌症例80例を対象とした。CMLH3K27とp16の発現を免疫染色で検討したところ、高ステージ、高グレード症例においてCMLH3K27の発現は上昇し、p16の発現は低下した。同様にp16ののメチル化レベルは高ステージ、高グレードで上昇した。 4) in vivo の検討 ヌードマウスxenograftモデルを用いてメトホルミン、5-aza-CdR処理による抗腫瘍効果の検討を行った。5-aza-CdR処理による抗腫瘍効果は認めたが、メトホルミン併用による抗腫瘍効果は5-aza-CdRと比較し有意差は認めなかった。
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