研究課題/領域番号 |
26861292
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
宮崎 利明 埼玉医科大学, 医学部, 研究員 (50589075)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | EBAG9 / がん腫瘍免疫 / 泌尿器がん |
研究実績の概要 |
前立腺がんは男性の健康を脅かす重大な疾患である。がん細胞の増殖・転移はこれを取りまく微小環境との相互作用によって制御されている。特に、免疫細胞はがん細胞を認識して排除するがん免疫反応に関与するのに対し、がん細胞はがん免疫を逃れる(エスケープ)メカニズムを有している。我々は、estrogen receptor-binding fragment-associated antigen 9 (EBAG9)を性ホルモン応答遺伝子として同定し、男性泌尿器がん(前立腺がん、精巣がん、腎がん、膀胱がん)をはじめとする様々ながん種において過剰発現し、予後不良因子となることを明らかにしてきた。しかしながら、腫瘍周囲の微小環境におけるEBAG9の作用は明らかではない。 がんと微小環境との相互作用におけるEBAG9の機能を明らかにするため、本年度は、Ebag9ノックアウトマウス(Ebag9KO)にがん細胞を移植する系を用いて、がんに対しては宿主側となる生体におけるEBAG9の機能を解析した。その結果、Ebag9KOマウスにおいて皮下移植された膀胱がん細胞の腫瘍増殖と肺への転移が抑制され、さらに、この形成された腫瘍組織内へのT細胞の浸潤が増加していることがわかった。また、腫瘍内のT細胞を分離して解析したところ、IFNγなどの免疫関連遺伝子の発現が増加していること、細胞外への顆粒物質の放出を示す脱顆粒反応が亢進していること、細胞傷害性が亢進していることが認められた。さらに、このEbag9KOマウスで形成された腫瘍内から分離したT細胞は、別個体に移植しても腫瘍形成の阻害能力が大きいことを明らかにした。これらのことより、宿主側のEBAG9はがん免疫を制御することによって、がん増殖に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
個体レベルにおけるEBAG9の機能を解析するために、我々はEBAG9 flox/floxマウスを作製し、このマウスと胎児期から全身で発現するAyu-1遺伝子のプロモーター下流にCreを発現するAyu-1 Creマウスとを交配することにより、全身でEBAG9を欠失しているノックアウトマウスを作製した。このEbag9KOマウスに膀胱がんMB-49細胞を皮下移植したところ、腫瘍増殖と肺への転移が抑制されることが明らかになった。さらに、CD3、CD4、CD8の細胞表面マーカーに対する抗体を用いた免疫染色法により、形成された腫瘍組織内にT細胞の浸潤が増加していることがわかった。腫瘍内のCD8陽性T細胞を分離して遺伝子発現を解析したところ、IFNγなどの免疫関連遺伝子の発現が増加していることが示された。また、腫瘍内のCD8陽性T細胞において、細胞表面抗原CD-107に対する抗体で染色し、FACSを用いて解析することにより、細胞外への顆粒物質の放出を示す脱顆粒反応が亢進していることを明らかにし、MB-49細胞との共培養実験により細胞傷害性が亢進していることが認められた。さらに、Ebag9KOマウスで形成された腫瘍内から分離したT細胞は、別個体に移植しても腫瘍形成の阻害能力が大きいことを明らかにし、宿主側のEbag9はがん免疫を制御することを解明した。これらの成果は国際誌に論文として発表した(Oncogenesis, e126, 2014)。さらに、前立腺がん細胞におけるEBAG9の機能に関して、発現抑制と過剰発現の両面から検証できる系を構築し、解析を行っている。これらの解析よりEBAG9の発現が、がん細胞と周囲環境との相互作用に影響を及ぼすメカニズムをin vitroの細胞培養系とin vivoのEbag9KOマウスを用いて解明をおこなっており、ほぼ計画通りに研究が進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、前立腺がん細胞におけるEBAG9の過剰発現系または発現抑制系による細胞周期、細胞増殖、アポトーシス、移動能、ならびに細胞増殖や移動能に関与するシグナル伝達などを解析する。また、Ebag9KOマウスに形成された腫瘍塊、ならびに周囲間質細胞や浸潤している免疫細胞への影響を解析し、腫瘍細胞と周囲の細胞に分けて遺伝子発現解析を行う。以上の解析を前立腺がん細胞もしくは膀胱がん細胞で行い、EBAG9の発現がもたらす微小環境変化と腫瘍増殖メカニズムの統合的な解明を進める。
次年度の研究費の使用計画 マウスを用いた腫瘍移植モデルの作製に必要な細胞の培養、実験動物マウスの維持・管理に必要な飼料、床敷など、形成された腫瘍塊からのT細胞や腫瘍細胞の単離などに使用する。また、これら組織や細胞からのRNAとタンパク質の抽出、ならびに遺伝子発現解析、定量的PCRに必要な試薬とキットなどに使用する。さらに、前立腺がん細胞におけるEBAG9の過剰発現系または発現抑制系による細胞周期、細胞増殖、アポトーシス、移動能、ならびに細胞増殖や移動能に関与するシグナル伝達などを解析するための試薬類、プラスチックチューブ、血清・培地に充当する。成果の発表に際し、論文投稿時の印刷代に使用する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当研究計画よりも進展があり、論文としてまとめる見通しが立ってきており、平成27年度に購入予定であった皮下腫瘍モデル用の実験動物や免疫系細胞を単離、精製するための試薬を購入する必要があったため。
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次年度使用額の使用計画 |
同型のマウス、 Ebag9KOマウス、Tgマウスに構築したがん細胞を移植し、形成された腫瘍、周辺組織ならびに転移部分から免疫系細胞を単離しマイクロアレイ法により遺伝子発現プロファイルを網羅的に探索する。候補遺伝子について、EBAG9誘導性の前立腺がんと膀胱がん腫瘍免疫特異的発現を検証し、細胞内局在やEBAG9との共局在や結合を検証する。Ebag9KOマウスまたはTgマウスとTRAMPマウスとの交配による、腫瘍発生、腫瘍増殖、定着性、転移性、さたに、腫瘍部位、腫瘍周辺の組織、転移部分における免疫系細胞の浸潤を免疫染色法によって検証する。皮下移植されたがん細胞の腫瘍増殖を、作製したEBAG9抗体により抑制できるか、また同時に転移能、腫瘍部位とその周辺組織、転移部位に置ける免疫系細胞の浸潤、サイトカインや細胞傷害性因子の発現変化に対する影響を解析する。
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