尿路上皮癌においては喫煙は発癌だけでなく、癌の再発・進展に関連しているとの報告が散見される。本研究では喫煙と膀胱癌再発の関連を調査すると共に、ニコチンによる尿路上皮癌に対するシグナル伝達を介した、特にPI3K/Akt経路への影響の解明と新規治療戦略を導く事を目的とする。当教室のデータベースにおいて長期禁煙は膀胱癌の膀胱内再発を有意に低下させる事が確認さた。In vitro実験系において膀胱癌細胞株T24にはニコチン性アセチルコリンレセプターのサブユニットであるα7が存在することを確認した。ニコチンをT24細胞に曝露することで、PI3K/Akt経路の活性上昇を確認し、WST assayにて細胞増殖促進を認めた。また、PI3K/mTOR阻害薬を用いることで、ニコチンによって活性化されたPI3K/Akt経路の活性を抑制し、細胞増殖を有意に抑えることが確認された。また、α7サブユニットのアンタゴニスト(MLA)をニコチンと同時曝露すると、PI3K/Akt経路の抑制は確認されたが、完全に抑制するものではなかった。一方、従来の抗癌剤であるシスプラチンを用いると、T24細胞においてはPI3K/Akt経路の活性上昇を認め、ニコチン曝露によりその活性はさらに上昇を認め、シスプラチンの殺細胞効果もニコチン曝露により有意に低下することが確認された。さらに、シスプラチンとPI3K/mTOR阻害薬の併用投与における効果を検討すると、それぞれ単剤の時と比較し、有意に殺細胞効果を認めた。これらの実験において、In vivo実験系でも同様の結果を得た。 ニコチンによるPI3K/Akt経路を介した腫瘍増殖効果・抗癌剤耐性獲得の機序の一部を解明したと共にPI3K/mTOR阻害薬を用いた治療戦略の検討を行った。
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