アンドロゲン・アンドロゲンレセプター軸(AR axis)は去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)の進展における中心的な役割を担っており、アンドロゲン生合成系は治療標的として有用である。本研究は、アンドロゲン生合成系を標的に、CYP17A阻害剤やAKR1C3を用いて、アンドロゲン生合成系の抑制部位の違いによってもたらされる抗腫瘍効果の相違を検討し、CRPCにおけるステロイド産生系の意義のさらなる解明と、その制御によるCRPCに対する新規治療戦略の確立を目的とした。 当教室で有するLNCaP・LNCaP-abl・C4-2AT6は、同様にPTEN欠損・AR増幅・PSA産生の形質を備えつつ、それぞれホルモン感受性・去勢抵抗性・去勢抵抗性ドセタキセル抵抗性という異なった特徴を持った前立腺癌細胞株であり、これは臨床における前立腺癌の進展プロセスと類似している。平成26年度の成果として、CYP17A阻害剤は細胞株の依存性に応じて異なる効果があることが分かったが、平成27年度は、ARのリガンドであるDHT自体が、それぞれの細部株に対して異なった反応を示すという知見が得られた。DHTは、本来AR axisのリガンドとして作用するにも関わらず、進行CRPC細胞に対して抗腫瘍効果を発揮していた。その機序は完全には解明されていないが、CDK2やCyclinA、Skp2、c-Mycといった細胞周期調節因子が関与してG1 arrestが生じることが示唆されており、ホルモン感受性→去勢抵抗性→去勢抵抗性ドセタキセル抵抗性と進行する各段階で、細胞内の代謝系が劇的に変化していることの反映とも考えられた。そこで今後は、細胞周期調節機構に着目して、そのシグナル伝達の変化が各種前立腺癌細胞にもたらす抗腫瘍効果およびAR axisをはじめとする様々なpathwayに与える活性変化を、比較・評価していく予定である。
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