活性化した血管内皮細胞で発現する遺伝子群中で同定されたVasohibin-1(VASH1)とVasohibin-2(VASH2)に着目して研究を行った。VASH1は外因性に投与すると血管内皮やリンパ管細胞の遊走・増殖能を調節する蛋白質で、血管・リンパ管新生は癌の遠隔・リンパ節転移に関与するため、Vasohibinの機能の解明は転移のメカニズムを解明し、「がん血管の異質性」を標的にした新治療につながる可能性がある。ヒト上部尿路上皮癌で免疫染色で検討を行い、VASH1は癌の核異型度と病期に関連し、従来から血管新生のマーカーとして評価のある微小血管密度とも有意に相関することが明らかになった。VASH1の高発現群では、無再発・癌特異的生存率が有意に低下しており、予後不良因子であった。VASH1は、癌悪性度と連動したバイオマーカーとなることを明らかにした。また、VASH1はヒト癌組織の間質に存在する血管内皮細胞に特異的に発現しており、腎・尿管等のヒト正常血管の血管内皮細胞ではVASH1は発現してないことも明らかになった。一方、VASH2は、癌組織において腫瘍細胞と腫瘍血管に特異的に発現していることが判明した。VASH1の発現調節因子として、遺伝子の転写を抑制するEZH2が、Histon H3コア蛋白の27番目lysineをメチル化(H3K27me3)してVASH1遺伝子の発現を不活化し、癌の進行に関係していたとの報告があるため、ヒト上部尿路上皮癌の検体においてEZH2とH3K27me3の免疫染色を行い、VASH1の発現との関連を検討した。EZH2とH3K27me3の発現は、癌の核異型度と病期、Lymphovascular invasionに関連し、その発現は互いに相関していた。H3K27me3とVASH1の発現には関連を認めており、エピジェネティクスな制御を受ける可能性が示唆された。
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