妊娠高血圧症候群は全妊婦の約3%に発生し、母児共に致命的な障害を惹起しうる妊娠合併症である。その原因は未だ不明であるが、妊娠初期の栄養膜細胞(trophoblast)の母体子宮脱落膜への浸潤不全が病因の一つと考えられている。しかし、本疾患の診断は妊娠20週以降になされるため、妊娠初期の疾患発生のメカニズムに対する研究は困難である。本研究の目的は、妊娠高血圧症候群の患者自身の臍帯を用いて、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を樹立した後、trophoblastに分化させることにより、trophoblast関連妊娠合併症の疾患モデルを確立し、疾患の発生メカニズムを聴感にすることである。 本研究の前段階として、研究代表者は胚性幹細胞(ES細胞)に、BMP4、ActivinA阻害剤(A83-1)、FGF2受容体阻害剤(PD173074)を投与することによりtrophoblastに分化することを示している。 本研究期間中に、まず、fibroblast由来のiPS細胞に同様の薬剤を添加することにより、ES細胞と同様にtrophoblastへと分化することを確認した。次に、本研究期間中に新たに採取した、正常妊婦(control)、および妊娠高血圧症候群の妊婦由来の臍帯を用いて、fibroblastの培養を行った。正常妊婦の臍帯からは高率にfibroblastを培養することができたが、患者由来の臍帯は、fibroblast発生率が正常妊婦に比べ有意に低値となった。研究期間中の患者のエントリー数も少なく、iPS疾患モデル作製に必要な量のfibroblastを得ることができなかった。 患者由来の臍帯は、fibroblast発生率において、すでに正常妊婦とは異なることが示された。今後、さらに妊娠高血圧症候群症例を蓄積することにより、患者臍帯由来のiPS細胞を確立することが可能になると考える。
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