平成29年度は平成26年度とH28年度に作成した英語論文の研究成果を「上皮性卵巣癌患者の静脈血栓塞栓症の発生原因と過凝固状態に着目した新たな予後因子の解明」という形でまとめた。 結果として、(1)上皮性卵巣癌組織でのtissue factor発現の強度が上昇するごとに、卵巣癌患者の静脈血栓塞栓症の発生率も有意に上昇したこと、(2)tissue factor発現が卵巣明細胞癌の組織で有意に高く、かつ強発現であること、(3)明細胞癌患者では非明細胞癌患者よりも静脈血栓塞栓症の発生率が有意に高いことが確認できた。また、(4)治療開始前D-Dimer高値は、既に報告されている他臓器の悪性腫瘍患者と同様に、卵巣癌患者でも独立した有意な予後不良因子であることが判明した。これらのことから、卵巣癌において、tissue factorを起点とした過凝固状態は静脈血栓塞栓症の発生のほか、腫瘍の進展にも関与している可能性があると考えられた。 来年度から、「婦人科悪性腫瘍の過凝固状態に着目した新たな治療戦略の探索」というテーマで科研費を頂けることとなった。この研究では、H29年度までの研究成果を元に卵巣癌での過凝固状態が腫瘍の進展に影響する機序を明らかにし、抗凝固療法の抗腫瘍効果についても示すことを目的とする。これにより抗凝固療法がドラッグリポジショニングにつながる可能性もあるので、癌治療の新たなターゲットを探索していきたい。
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