研究実績の概要 |
免疫寛容が妊娠維持に必須であり、申請者はこれまでに制御性T細胞(Treg)が母児免疫寛容に重要であるこをと報告してきた。その誘導機序として父親由来抗原を含む精漿が妊娠時の免疫寛容誘導を担っている可能性が示唆されている(Robertson S らBOR2009)。申請者は父親抗原特異的制御性T細胞をT細胞受容体レベルで正確に同定する手法を開発し、これまでに精漿のプライミングにより着床1日前に父親抗原特異的Treg細胞が子宮所属リンパ節に集簇し、着床後に子宮に集簇することを証明し、同細胞が着床前後で妊娠維持に非常に重要な役割を果たしていることを報告した(Shima Tら、JRI2015)。今回、精漿がどのような機序で免疫寛容を誘導するのかを父親抗原特異的Treg,制御性樹状細胞等の免疫細胞に注目し研究を進めた。 マウス妊娠における精漿の有無による各臓器の樹状細胞のpopulationおよびその変動を明らかにするために、精嚢腺除去(SVX)マウスを作成し、アロ交配させ、正常アロ交配、正常同系交配、非妊娠マウスと比較した。着床直前(day3.5)および着床直後(day5.5)の正常アロ交配マウスの子宮局所に集簇している樹状細胞は、非妊娠マウスに比較し、MHCclassⅡ発現が低下、CD86分子発現が低下、B7DC分子発現が増強していた。一方で、SVXマウスとのアロ交配では、上記分子発現は同系交配や非妊娠マウスと変化を認めなった。さらにその機能解析のため、脾臓または子宮から樹状細胞を回収し、非妊娠マウス由来リンパ球とMMC処理した父親由来脾細胞と混合培養しサイミジン取り込み試験を行った。正常アロ交配の子宮中の樹状細胞は、SVXマウスとのアロ交配の子宮中の樹状細胞や、脾臓中の樹状細胞に比較し、リンパ球増加を有意に抑制していた。以上より、精漿のプライミングが子宮局所(母児接点)に集簇する樹状細胞のpopulationを制御性樹状細胞に変化させ母児免疫寛容に関与していると考えられた。
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