子宮筋腫において発症の鍵となるマスター遺伝子を検索するため、ゲノムワイド発現解析で得られた発現異常遺伝子において相互的ネットワーク解析を行って上流遺伝子を検出し、これらのうちDNAメチル化異常を有する5遺伝子に着目した。特に、転写因子であるHypoxia Inducible Factor 2(HIF2)とNeureglin 1(NRG1)に着目した。HIF2は低酸素応答や酸化ストレスへの反応に関与する遺伝子群の上流に位置し、子宮筋腫においてDNA高メチル化、mRNA低発現であった。HIF2の発現低下は月経中の子宮収縮により子宮筋層が低酸素に晒されると活性酸素の蓄積を招き、EGF pathwayを活性化させて筋腫の増殖に関与している可能性がある。NRG1はEGF receptor(EGFR)のリガンドとして機能しており、EFGRはTGFβと密接に関与して細胞増殖に関与することが知られる。NRG1が低メチル化、高発現である子宮筋腫ではNRG1がHIF2とともに筋腫の増殖に関与している可能性がある。そこでHIF2をノックダウンし、NRG1を強制発現させた子宮平滑筋細胞を作成し、細胞での発現変化を観察した。 NRG1をヒト不死化子宮平滑筋細胞において強制発現させ、ゲノムワイドにトランスクリプトーム解析を行って、活性化された遺伝子群やpathwayを観察した。その結果、子宮筋腫において活性化されていたTGFβ シグナリングやWnt/βカテニンシグナリングなどの活性化が観察された。これらのシグナリングは細胞増殖に関与することが知られており、これらの結果は、子宮筋腫の発症や進展におけるNRG1の関与を説明したものと考えられる。一方、HIF2のノックダウンは、導入するヒト不死化子宮平滑筋細胞におけるHIF2の発現が極めて低いため、ノックダウンの影響を確認することが困難であった。
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