子宮内膜症細胞が子宮外で生着、増殖する原因として、アポトーシス制御シグナルの破綻と増殖シグナルの活性化が考えられている。我々は、このシグナル伝達の異常にエピジェネティック機構におけるヒストン修飾が関与することを報告した。今回の研究は、卵巣子宮内膜間質細胞(endometriotic cyst stromal cells: ECSCs)とそのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤処理群(valproic acid: VPA)を比較したcDNAマイクロアレイにより抽出された候補遺伝子、Death Receptor (DR)6について、子宮内膜症の病態形成への関与を検討することが目的であった。初年度に実施した研究によって以下6つの知見を得た。①正常子宮内膜間質細胞(normal endometrial stromal cells: NESCs)と②ECSCsの分離・培養に成功した。③VPA処理によってECSCsにおけるDR6の発現は増強した(mRNAおよび蛋白)。④VPA処理によってECSCsにおけるDR6プロモーター領域ヒストンH4のアセチル化が起こった。⑤DR6の発現(蛋白およびmRNA)は、NESCsに比較してECSCsで減弱していた。⑥組織切片(正常子宮内膜および卵巣子宮内膜症組織)においても同様の結果を得た。最終年度に実施した研究によってさらに以下3つの知見を得た。⑦DR6 siRNA導入によってDR6蛋白およびmRNAの発現は減弱した。⑧NESCsにおけるDR6ノックダウンによって細胞増殖が亢進した(MTT assay、BrdU incorporation assay)。⑨NESCsにおけるDR6ノックダウンによってアポトーシスは減弱した(Caspase 3/7 assay、cell death detection ELISA)。以上から、DR6の発現低下は子宮内膜症に特異的でること、及びDR6の発現抑制による機能的変化を証明できた。結論として、子宮内膜症におけるアポトーシス受容体DR6の発現低下が子宮内膜症の病態形成に関与することが示された。
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