研究実績の概要 |
平成27年度は、昨年度に引き続き当施設および共同研究施設より収集されたAuditory neuropathy spectrum disorder(ANSD)の臨床像を示す患者に対する変異解析を行い、また、ANSD患者の中で遺伝子変異が同定された症例に関して人工内耳の効果について検討を行った。昨年度までに収集されたANSD症例は15例に増加した。これらの症例の末梢血より抽出されたDNAを用い、OTOF,PJVK,GJB2遺伝子のスプライシング部位を含む全エクソン領域を直接シークエンス法により解析した。病的変異の判断は、変異の種類、家系内での整合性、コントロール群における頻度などを検討して行った。 今回変異検索を行った15人中11名(73.3%)に少なくとも一つのOTOF遺伝子変異を認めた。変異の内訳としては6名がホモ接合体、3名がコンパウンドへテロ接合体、2名がヘテロ接合体であった。PJVK,GJB2遺伝子変異は認めなかった。また日本人において高頻度で同定されるfounder mutationである p.R1939Q変異はOTOF遺伝子変異が同定された11名のうち10名(90.9%)に認めた。ANSD患者においてはp.R1939Q変異のスクリーニングを行うことにより、効率的な診断が見込めると考えられる。 今年度はANSD患者の中でOTOF遺伝子変異が同定された症例のうち、臨床データが渉猟し得た4症例に関して人工内耳の効果について検討を行った。人工内耳の装用閾値は条件詮索反応聴力検査(COR)もしくは純音聴力検査にて評価した。4症例の装用閾値の平均は35.6(±4.4)dBであり、一般的な人工内耳装用児の装用閾値との差異は認めなかった。また、幼小児人工内耳の標準的評価方法であるIT-MAISによる評価でも、人工内耳装用後6ヶ月、1年後の評価にて良好な結果となっていた。装用閾値、IT-MAIS の結果からはANSDに対する人工内耳の効果は一般的な人工内耳装用児に劣らないと考えられる。
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