研究実績の概要 |
先天性難聴は新生児1,000名に1名に認められる比較的頻度の高い障害である。従来は、原因も発症メカニズムも不明であるケースが殆どであったが、近年、遺伝学的解析手法の進歩により、多くの先天性難聴の原因遺伝子変異が同定され、発症メカニズムも徐々に明らかとなってきている。 通常、重度難聴は内耳に電極を挿入し蝸牛神経へ直接電気信号を入れる人工内耳の適応となる。人工内耳の登場により高度難聴でも会話に必要な聴力が獲得できるようになった。特に先天性難聴の場合、早期手術により良好な音声言語が獲得できるため、早期診断と早期治療が重要である。 また、近年は人工内耳の適応が拡大してきており、重度難聴だけでなく、低音域に残存聴力がある高音急墜型難聴の治療法として、低音域は補聴器、高音域は人工内耳で同時に刺激を行う残存聴力活用型人工内耳が新たに保険収載された。 いずれも非症候群性である例が多く、84種類以上ある非症候群性難聴の原因遺伝子によるものと考えられる。原因遺伝子を明らかにすることで、それぞれの原因に基づく症状の細分化、また、人工内耳による治療の効果予測が期待される。 2014年度には、高度医療で行った残存聴力活用型人工内耳を行った高音急墜型難聴の成人30例32耳に対し、次世代シーケンサー(Ion PGM)による既知難聴遺伝子63遺伝子の解析を行った。結果、TMPRSS3遺伝子3例(10%),ACTG1遺伝子変異2例(7%)を見出した。いずれも非常に稀な遅発性に高音障害型難聴を呈する遺伝子であり、本研究で見出された症例も同様の経過をたどっており、これまで報告されていなかった人工内耳の詳細な成績やその臨床像を含め、論文化することができた。
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