平成28年度には電気生理学的実験により嗅神経の機能的再生を確認した。 これまでと同様に、遺伝子組み換えマウスであるOMP-tau-lacZマウスを用いた。マウスにペントバルビタールを腹腔内注射して全身麻酔下で固定器で固定し、前頭開頭を行い、嗅球と篩板を露出させて、ステンレスカッターを一側の篩板と嗅球との間に挿入して嗅神経を切断した。手術後7日または14日経過してから、ステロイド薬であるデキサメサゾンあるいはコントロールとしての生食を腹腔内注射した群を設けた。以上で2×2の合計4群を設けた。 嗅神経の電気刺激と神経電気活動記録は以下のようにして施行した。再びベントバルビタールで全身麻酔を施行した後、鼻骨を一部削開し、鼻腔も露出させて嗅粘膜に刺激電極を当て、嗅球内に記録電極を挿入し、神経のField potential神経活動記録を施行した。これにより神経伝導の回復の有無を確認した。 その結果、行動学的実験の結果と同様に、ステロイド薬を投与した群では、術後7日後投与群でField potential神経活動の記録が良好であったが、術後14日後投与群のField potential神経活動の記録は有意に不良という結果であった。また、コントロールの生食を投与した群では、術後7日後投与群も術後14日後投与分も、どちらもField potential神経活動の記録が不良であった。 以上から、炎症抑制による外傷性嗅覚障害治療は受傷後1週間までは有効だが2週間以上経過すると無効であると考えられた。
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