本研究の「目的」および「研究実施計画」は、tympanic border cell近傍の内耳幹細胞の遺伝子発現を解析し、その制御メカニズムを解明することにより、内耳再生による感音難聴治療法の開発を行うことである。研究期間(4年)を通じて、何度も実験に行き詰ったが、最終的に以下の知見を得ることができた。 1)内耳サンプルのLCM(Laser captured microdissection)法の確立:抽出されたRNAサンプルの質および量をマイクロアレイレベル(最低10 ngのRNAかつRIN値が7以上)にするための改良を行った。結果得られた知見は以下の通りであった。まず、固定(脱灰)サンプルよりも未固定サンプルが良かった。次に、未固定だと切片の形状がかなり悪いため、tympanic border cellを特定するためのレポーターマウスの使用が必要であった。細胞種特定のための染色法には限界があった。さらに、採取細胞は少なくとも100個必要であると考えられた。 2)内耳幹細胞の遺伝子発現の解析:1)の確立に時間を要したため、LCMを用いない方法にてtympanic border cell近傍の内耳幹細胞の発現遺伝子の確認を試みた。当科で得られたマイクロアレイデータ(伊木ら、PLoS One. 2017;12:e0179901.)から、内耳幹細胞の候補となる遺伝子をいくつか抽出し、抗体による内耳切片の免疫組織染色を行った。その結果、tympanic border cell近傍で染まった分子が見つかった。 本研究で得られた成果の一部は新たな知見であり、今後の内耳研究における発展を願う。
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