非選択的陽イオンチャネルであるTRPV (transient receptor potential vanilloid) 4受容体は侵害刺激受容体のTRPVファミリーの一つで、体性感覚系の神経節(後根神経節、三叉神経節)、腎、肺、視床下部、蝸牛等に発現している。内耳においてはTRPV4受容体の発現は蝸牛や内リンパ嚢で既に報告がある。TRPV4ノックアウトマウスでは遅発性聴力障害がみられるため、TRPV4受容体は聴覚系では非常に重要なチャネルであると想定されるが、前庭系での役割については明らかではない。今回我々はTRPV4受容体について、RT-PCR法、in situ hybridization法、免疫組織化学法といった組織学的な発現だけでなくカルシウムイメージング法を用いて機能的な発現も確認した。現在これらの結果をまとめて論文投稿中であるが、査読者のコメントを踏まえてさらにカルシウムイメージング法を用いて新たな実験を行った。その結果、TRPV4受容体のアゴニストである4a-PDDと低浸透圧刺激の両方に応答して細胞内カルシウム濃度が上昇する細胞を認めた。免疫組織化学法などについても吸収抗原を用いた実験などを追加して行っているところである。 めまい時の治療で汎用されるメイロン(7%炭酸水素ナトリウム溶液)は高張液のため、めまい時には前庭系が低張状態にさらされている可能性があり、TRPV4が何らかの役割を果たしていることも考えられる。また、メニエール病では膜迷路破裂説が唱えられており、めまい発作時に膜迷路が破裂して蝸牛内外リンパ液の高カリウム化が起こっている可能性がある。この時に内外リンパ液の浸透圧に変化が起きている可能性があり、このTRPV4受容体はめまい発作に何らかの関与をしている可能性が考えられる。
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