色素性乾皮症のうち日本に最も多いA相補性群(以下XPAと訳す)には、皮膚症状に加え、知能障害、歩行障害、難聴、嚥下障害といった進行性の中枢神経・末梢神経症状がみられ予後も不良である。神経障害の発生機序については現在不明であり、有効な治療法は確立されていない。我々はXPAモデルマウスを用い、内耳機能の脆弱性を評価することで、神経障害の病態の解明ならびに治療法の開発を試みた。11匹のC57BL/6Jアルビノマウス(年齢38~40週)を使用した。うち6匹はXPA遺伝子欠損マウスであり、残り5匹の野生型を対照群とした。比較する項目は聴性脳幹反応(以下ABRと訳す)での聴力レベル、蝸牛の形態、ラセン神経節細胞数とした。すべてのデータは平均値±SEとし、ABRの測定値とラセン神経節細胞密度はt検定で統計学的評価を行い、p<0.01を統計学的有意とした。腹腔麻酔下にABRを両耳測定し、最大音響レベルから5dBずつ音圧を下げ、波形が認められる最少音響レベルを聴力レベルとした。XPA群の平均聴力は4kHz 79.5dB・8kHz 71.9dB・16kHz 67dB、野生型の平均聴力は4kHz 50dB・8kHz 31.9dB・16kHz 27.7dBで、3周波数のすべてにおいてXPA群で統計学的に聴力低下を認めた。ABR測定後に摘出・処理した蝸牛の観察ではラセン神経節細胞とラセン神経は野生型よりXPA群で退行していた。蝸牛軸と軸から30マイクロメートル離れた切片をらせん神経節細胞数の評価に用いた。10000平方マイクロメートル当たりのⅠ型ラセン神経節細胞数は頂回転12.6個・中回転12.7個・基底回転5.4個、野生型の平均ラセン神経節細胞数は頂回転19.0個・中回転21.3個・基底回転7.9個で、XPA群で頂回転・中回転においてラセン神経節細胞数が統計学的に減少していた。上記内容で論文投稿中である。追加実験としてXPAモデルマウスの蝸牛切片を免疫染色中である。
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