頭頸部腫瘍や転移リンパ節の悪性診断に、硬さの情報は重要である。超音波エラストグラフィは、硬さを客観的に評価するために手法として開発された。従来の超音波エラストグラフィは、組織を用手的に圧迫したときに生じる歪みの割合を色分けして表現するものであり、周囲組織との相対評価であった。 これに対し、近年開発されたshear waveエラストグラフィは、音響放射圧(acoustic radiation force impulse: ARFI)により発生した超音波せん断波(shear wave)の組織伝達速度から組織弾性を表現する。しかし頸部において、生体内でのshear wave伝達速度と組織構造の関係は不明であった。 Shear waveは速度の遅い横波であるため、生体内では周囲環境の生理的アーチファクトに大きく影響されていることが予測された。本研究では、頭頸部領域の甲状腺の摘出標本を利用し、生体内での生理的アーチファクトを除いた状態で、shear wave速度と組織構造との詳細な関係を明らかにした。甲状腺乳頭癌、濾胞癌、濾胞腺腫、自己免疫性甲状腺炎、正常甲状腺の摘出検体を使用し、各組織型でのshear wave伝達速度を測定し、shear wave速度と組織構造を検討した。その結果、最も速度が早くなるのは線維化組織であり、石灰化や嚢胞、不均質な組織構造では速度測定が困難であることが分かった。さらにshear wave エラストグラフィが、甲状腺の良悪性鑑別や、自己免疫性甲状腺炎などのびまん性病変の診断に有用となることを発表した。そして、さらに生体内でshear waveに影響するアーチファクトについて明らかにした。
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