研究実績の概要 |
先天性難聴は2,000人に1人と高頻度でその半数が遺伝性である。そのうちGJB2(コネキシン26)遺伝子変異は日本人で最も高頻度の原因遺伝子で、早期発見と治療方針を決定する上で本質的な発症原因の探求が重要である。 本研究では、GJB2変異型難聴の病態解明と治療法開発を目的とし、GJB2変異難聴モデルマウスの生後発育におけるコルチ器の形成過程の変化に焦点を当てた研究を行った。これまでの我々の研究で明らかとなったGJB2変異モデルマウスにおけるコルチトンネルの消失、コルチ器立体構築の異常(Inoshita, Neuroscience 2008)、外有毛細胞の機能低下(Minekawa, Neuroscience 2009)の原因を解明するため、GJB2 R75W変異難聴モデル蝸牛の発達期蝸牛における組織学的解析を行った。 通常の生後発達の際は、プログラム細胞死によってコルチ器の立体構造が構築されるが、臨床において検出されるGJB2の優性変異 R75Wを導入したトランジェニックマウスにおいては、正常発達に起こるアポトーシスによるプログラム細胞死が遅延し、コルチ器は一時的に過形成の状態になることが示された。 この現象は特にコルチ器近傍のGERにおいて顕著にみられ、このことによってコルチ器の圧排が生じ、有毛細胞の機能低下とコルチトンネルの消失の原因となっていることが示唆された。これらの結果は遺伝学専門誌にて報告された。(Inoshita et al., BMC genetics 2014, 15(1):1-8) これらの結果から、GJB2変異型難聴ではGER領域のプログラム細胞死が遅延していることによりコルチ器形成が異常となり、これが聴覚受容機能の低下の一因となる新たな病態の可能性が示唆された。
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