常染色体優性遺伝の遺伝性難聴であるDFNA9では蝸牛の間質内に変異Cochlinが貯留することがわかっている。本研究ではDFNA9の原因タンパク質であるCochlinをRNAiの手法を用いて発現抑制を行いDFNA9の発症を抑制可能かを検討した。前段階として、ヒトの剖検検体を用いたヒト内耳miRNAの発現解析を行った。年齢性別による発現量比較を行ったが、発現量比の変動のあるmiRNAにCochlinのsiRNAとなり得るようなmiRNAの発現は認めなかった。 今回の実験ではまずヒト由来の細胞株にCochlinを安定的に産生させる系の確立を目指した。Cochlinは細胞外マトリックスのコラーゲンに結合する分泌タンパク質である。発現ベクターとしてpcDNAベクターを用い、CMVプロモーター下にCochlin遺伝子を挿入して発現ベクターを構築した。このプラスミドをリポフェクション法によりヒト由来接着細胞(U2OS)に導入し、まず一過性発現による最適な発現条件の検討を行った。次に発現ベクターに含まれる薬剤耐性遺伝子(Bsd耐性遺伝子)によりCochlinの安定発現株のスクリーニングを行ったところ、薬剤耐性株におけるCochlinの発現量がきわめて低く、Anti-Cochlin抗体による検出が非常に困難であった。そのため、CMVプロモーターの発現が最適化されているCOS細胞(アフリカミドリザル腎細胞由来)を用いて発現を行ったところ、細胞免疫染色による発現が確認できた。既存のツールを用いて設計したsiRNAをもちいてCochlinの発現抑制が可能であるか検討を行ったが、発現抑制は観察できなかった。
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