研究課題/領域番号 |
26861426
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
岡本 秀彦 生理学研究所, 統合生理研究系, 准教授 (30588512)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 聴覚 / 耳鳴り / 難聴 / 可塑性 / イメージング / リハビリテーション / 脳磁図 |
研究実績の概要 |
突発性難聴は急激に発症し、難聴・耳閉感・目眩等を主訴とする原因不明の疾患である。その受療率は厚生省研究班の調査によると、1993年には人口100万人に対して192.4人であったのが、2001年には275.0人と急速に増加している。残念ながら突発性難聴の発症メカニズムはいまだに不明であり、薬剤治療の有効性も明らかではない。 申請者は脳神経活動の可塑的な変化に注目し、音楽を音刺激として用いた音響療法を試みた。以前の研究より、突発性難聴の発症により脳神経活動が可塑性変化を起こし、本来病側耳からの音刺激に対して反応していた脳活動部位が健常耳からの刺激に応答するようになることが知られている。そこで、健常耳への音刺激を抑え、病側耳への音刺激を増すことで脳神経活動の賦活化を試みた。その結果、中等度の突発性難聴患者の聴力を薬剤単独療法に比べてより改善させることに成功した。 また、突発性難聴などの感音難聴を有する患者の多くが耳鳴りに悩まされている。耳鳴りはそれ自体が直接命を脅かす疾患ではないが、生活の質を大きく低下させる疾患であり非常に多くの人々が苦しんでいる。耳鳴りは、実際に音源がないのに不快な音を知覚する疾患であり、耳鳴りの知覚には脳中枢神経の関与が示唆されている。そこで申請者は難聴や耳鳴りを理解するためには、脳が「静寂」をどのように処理しているかが重要であると考えた。そこで脳磁図を用いた基礎研究を通じて、ヒト聴覚野において「静寂」が脳神経活動に様々な影響を与えることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
突発性難聴に対する音楽を用いた音響療法に関して、国内外の学会や研究会で発表を行った。また、どのような重症度の患者に対してどのような効果があるのか、発症から治療までの期間はどのような影響をもたらすか等、まだまだ不明な点も多く残されているため、複数の臨床施設と共同で突発性難聴に対する音響療法を施行しデータの蓄積を行っている。 また、突発性難聴では病側耳の蝸牛から脳に対して神経活動の入力が行われないわけであるが、そのような蝸牛から脳への神経刺激入力がない「静寂」がヒト聴覚野における脳活動にどのような影響をあたえるかを基礎研究を通して調べ、その研究結果を論文としてまとめ国際学術誌に投稿し掲載された。「静寂」の神経メカニズムの解明は、難聴・耳鳴り等の聴覚疾患の理解や治療に貢献すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も国内外の学会や研究会での発表を通して多くの研究機関・臨床施設に働きかけ、突発性難聴に対する音響療法が施行可能な施設数を増やしデータを蓄積する。 難聴・耳鳴りがヒト脳活動にどのような影響を及ぼすかを、完全に非侵襲に静かな環境で高い時間分解能で計測できる脳磁図(magnetoencephalography)を用いて記録して新しい神経生理学的知見を得ることで、疾患のメカニズムの解明や今後の新しい治療法の開発に貢献する。 ヒトが他者と会話を行う際には、周波数変調音の知覚が重要な役割を担っていることが知られている。ヒト脳における周波数変調音を知覚する神経メカニズムを解明することで難聴患者や高齢者のコミュニケーション能力の改善やリハビリテーションの開発に繋がるのではないかと考え、周波数変調音提示時のヒト脳活動を脳磁図を用いて計測する。
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