本課題では、申請者らが報告した下咽頭癌幹細胞マーカーであるCD271が、下咽頭癌において果たす機能を解明することを目的とした。この機能性を検討するため、下咽頭癌患者由来検体から細胞株を樹立した。この細胞にsiRNAを導入することによってCD271ノックダウン細胞株を樹立し、がん細胞の特性の変化を検証した。その結果、CD271のノックダウンにより、in vitroにおける細胞増殖は著しく減少し、免疫不全マウスであるNOGマウス皮下への異種移植試験においても、CD271ノックダウン細胞は造腫瘍能を失っていた。ノックダウン細胞の増殖シグナルを観察したところ、特にERKを介したシグナルが減少していることが判明し、CD271がERKのリン酸化を介して下咽頭癌の増速制御を行っている可能性が示唆された。さらに、CD271ノックダウン細胞では細胞周期はG0期に強い誘導が起こっており、この現象はERKの阻害薬を用いても再現できなかった。このことから、CD271は少なくともErkの制御とG0期の誘導という二つの経路を通して細胞の増殖制御を行っていると考えられる。更に、増殖のみならず、CD271ノックダウン細胞は浸潤に重要な移動能が著しく低下していた。これは、CD271-RhoAの特異的阻害薬であるTAT-Pep5を用いた試験においても同様の傾向を認め、CD271は下咽頭癌において、複数の経路を介して悪性度を制御していることが示された。以上より、CD271は下咽頭癌の治療標的として有望であると判明したため、今後、CD271を標的とした治療法に着手し、下咽頭癌の根治に向けた取り組みを行っていく。
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