光感受性チャネルロドプシンは、近年、新たな視覚再建ツールとして研究されている。しかし、オリジナルのチャネルロドプシンは培養細胞レベルでの検討は増えてきたが、神経伝達機構に関する研究はまだ少ない。チャネルロドプシン2(ChR2)の陽イオン選択的チャネルとして機能するという特徴を利用することにより、神経細胞を特定の波長光で人為的に興奮させることが可能である。即ち、視細胞が存在しない網膜の特定の細胞にChR2を発現させることにより、その細胞以降の神経伝達機構を調べることができる。一方、ChR2を用いた視覚再生という点から見ると、網膜のどの神経細胞にChR2を発現させるかその違いを検討することで、失明者に効果的な視覚を生み出すことができるかを知ることができると考えている。特に視細胞が変性するとOn型双極細胞以降のシナプス構造が変化することが確認されており、ON型双極細胞に特異的に遺伝子導入を行い、双極細胞以降のシグナル伝達を調べることは重要な課題である。そこで、本研究は、ラットの網膜を用いてスライスパッチクランプの手法を用い、網膜の個々の細胞の反応を見ることを目的としている。 硝子体内投与で神経節細胞ではなく、双極細胞に選択的に遺伝子を導入することは困難であった。そこで、ON型双極細胞に特異的に発現する、代謝調節型グルタミン酸受容体のプロモーターを用いたアデノ随伴ウイルスベクター(AAV-mGluR6-ChR2V)を作製した。このAAV-mGluR6-ChR2Vも硝子体内投与ではON型双極細胞に導入することができず、網膜下投与によって、導入に成功したものの、導入部位は限局していた。変異型のAAV-mGluR6-ChR2Vを作製したところ、硝子体内投与でより広い範囲に導入が可能となった。今後は、スライス標本でのパッチクランプだけでなく、網膜伸展標本用いた手法により検討する予定である。
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