視細胞でのTFAM(transcription factor A)についてconditional knockout(CKO)マウスを用いて解析を行った。TFAM floxマウスとCrx-Creマウスの交配の結果、生後2週間以上生存するCKOマウスが得られる確率は遺伝形式から予想される確率よりもはるかに低く、トータルで10匹以下であった。そのため詳細な機能解析等は不可能であったが、網膜発生・分化、視細胞変性を免疫組織学的に観察することは可能であった。 結果として以下が明らかとなった。まず、TFAMの欠損にもかかわらず、錐体、桿体視細胞への分化は確認された。しかしその後、速やかに錐体視細胞死が起こった。桿体視細胞死も同時に起こったが、進行は比較的緩やかで、ロドプシンの視細胞外接への局在も保たれていた。通常のrod-cone dystrophyのフェノタイプとは異なり、Tfamの欠損はcone-rod dystophyのフェノタイプを呈することが明らかとなった。 現在、以上の結果を英語論文としてまとめ、投稿作業中である。 ミトコンドリアに標的をしぼった視細胞、網膜変性の研究は本研究代表者の知る限りでこれまでほとんどなされておらず、本研究によって視細胞にとってのミトコンドリアの重要性の一端が明らかになった。また、将来的に、ミトコンドリア機能活性化による網膜変性の抑制効果が確認されれば、現在は治療法が存在しない網膜色素変性における新たな治療法の可能性を提示することができると考えられる。
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