研究課題/領域番号 |
26861454
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
有田 量一 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30621289)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 血管透過性亢進 / 糖尿病網膜症 / Rho kinase |
研究実績の概要 |
本研究では糖尿病網膜症、特にこれまで明らかとなっていない網膜血管透過性亢進メカニズムへのRho kinase (ROCK)の関与を解明し、“網膜血管透過性をターゲットとしたROCK阻害剤の病態制御”の可能性を模索することです。 網膜血管内皮細胞の増殖、遊走は血管透過性亢進に深く関与しており、ヒト培養網膜微小血管内皮細胞を用いたMTT assayにおいてROCK阻害剤はVEGF刺激による網膜血管内皮細胞の増殖を抑制し、cell migration assayにおいて網膜血管内皮細胞の遊走を抑制することを確認しました。閉鎖帯(tight junction)は、血管内皮細胞において水溶性小分子に対するバリアーとして機能し血管壁の透過性を制御しており、そのバリアー機能にtight junction関連蛋白であるclaudin(特にclaudin-5)が重要であると考えられています。免疫染色およびWestern blottingの結果より、閉鎖帯に発現しているclaudin-5はVEGF刺激によって崩壊して細胞内に取り込まれていきますが、ROCK阻害剤がこのclaudin-5の崩壊を抑制することを確認しました。このことから糖尿病網膜症における血管透過性制御に重要な閉鎖帯におけるclaudin-5発現維持にもROCKが関与していることが分かりました。 ヒト培養網膜微小血管内皮細胞を用いたIn vitroにおける透過性試験においても、ROCK阻害剤はVEGF刺激による透過性亢進を有意に抑制することが分かりました。 網膜血管透過性亢進に対して現在使用されているVEGF阻害薬は生理的なVEGFをも中和してしまうことから心脳血管障害などの有害事象が懸念されますが、ROCK阻害剤は抗VEGF阻害薬とは異なり、VEGFを抑制することなく血管透過性を改善するという新しい観点からの治療法となり得る可能性があります。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒト網膜微小血管内皮細胞を用いた増殖能、遊走能の実験において、ROCK阻害剤による増殖、遊走への抑制効果についてのデータが得られました。また、ROCKのヒト網膜血管内皮細胞におけるTight Junction発現への影響に関して、ROCK阻害剤がVEGF刺激によるclaudin-5のtight junctionからの崩壊を阻害することが分かりました。 ROCKの網膜血管内皮細胞における血管透過性への影響に関しては、ヒト網膜微小血管内皮細胞を用いたin Vitroの血管透過性試験の実験系において、ROCK阻害剤はVEGF刺激による透過性亢進を有意に抑制することが分かりました。 実験計画ではヒト網膜血管内皮細胞におけるTight Junction発現への影響に関して、VEGF以外に高血糖や糖尿病網膜症患者血清、Rho activatorリゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid)刺激によるtight junction関連蛋白(claudin-5)発現への影響を評価する予定でしたが、まだそれらの実験は行えておらず、やや遅れていると判断しました。
|
今後の研究の推進方策 |
In vitroでヒト網膜血管内皮細胞におけるTight Junction発現への影響に関して、VEGF以外に高血糖や糖尿病網膜症患者血清、Rho activatorリゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid)刺激によるtight junction関連蛋白(claudin-5)発現へのROCKの影響を評価しつつ、In vivoでも計画通り無灌流領域や網膜新生血管などの増殖性変化を生じる糖尿病モデルマウス(Akimbaマウス)を自然発生糖尿病モデルマウス(Akitaマウス)とVEGFを網膜で高発現する遺伝子組み換えマウス(Kimbaマウス)を交配させて作成していきます。Akimbaマウスの個体数が確保できた時点で、ROCK阻害剤によるtight junction関連タンパクの発現・局在、血管透過性亢進、網膜血管内皮細胞への白血球接着や内皮細胞障害に関する検討を進めて、生体内においても糖尿病網膜症でみられる血管透過性亢進の病態を制御し得るかを明らかにしていく計画です。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度はヒト培養網膜微小血管内皮細胞や免疫染色、血管透過性キットおよびWestern blottingの試薬を当実験施設で所持していたことから、本年度計画していた使用額が少なくなってしまいました。
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度行えなかったIn vitroでのヒト網膜血管内皮細胞におけるTight Junction発現に関する実験に使用するとともに、in vivo実験での自然発生糖尿病モデルマウス(Akitaマウス)とVEGF遺伝子組み換えマウス(Kimbaマウス)を交配させて糖尿病モデルマウス(Akimbaマウス)を作成していく予定であり、必要な個体数を作成飼育していく費用に使用する予定です。
|