①角膜混濁発生の機序 RSPO1-KOマウスでは、生後2-6か月から角膜混濁と新生血管を認め、組織学的には角膜上皮下沈着物や炎症所見とともに、角膜上皮細胞の形態異常が顕著である。細隙灯顕微鏡所見では点状表層角膜症(SPK)と角膜透過性亢進、電子顕微鏡所見では、角膜上皮最表層の形状変化がみられ、免疫染色では細胞間接着関連蛋白の発現が低下していた。角膜混濁の一成分はカルシウム(Ca)であった。これらを考え合わせると、RSPO1-KOマウスでは、角膜上皮細胞の分化異常があり、細胞間接着が減弱する結果、涙液の一成分であるCaが角膜上皮下に浸透・沈着し、角膜混濁を生じている可能性が示唆された。SPKや角膜混濁を起こす他の原因について(マイボーム腺、涙液量、血液中Ca濃度等)比較検討したが、有意差は認めず、全身の影響や眼瞼の刺激等ではなく、角膜上皮分化異常がこれらの異常をおこしていると考えられた。RSPO1-KOマウスで生じる角膜混濁は、新生血管などの炎症所見を伴うこと、加齢や同ケージ複数飼いによって増加すること、RSPO1がWntシグナル伝達関連因子であることから、RSPO1遺伝子欠損マウスでは炎症をより惹起しやすいと考察される。まとめるとRSPO1-KOマウスでの角膜混濁の原因は、角膜分化異常と炎症の惹起であると思われた。 ②RSPO1の角膜上皮創傷における役割 RSPO1-KOマウスを用いて角膜上皮創傷モデルを作成し、創傷治癒過程でのRSPO1の役割について検討した結果、創傷後早期に有意に創傷治癒遅延があり、RSPO1が創傷治癒早期に創傷治癒を促進する働きがある可能性が示唆された。 ③発生への関与 RSPO1-KOマウスでは、正常マウスよりも有意に眼球が小さく、眼球発生にも関与していることが示唆された。 以上よりRSPO1は角膜分化に必須で角膜恒常性維持に大きく関与することが示された。
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