網膜色素変性や加齢黄斑変性症などの視細胞変性疾患において,視細胞移植の可能性が注目されている.しかし,ヒトiPS細胞から網膜細胞に分化させたときにどの発生段階の視細胞が移植に適しているのかは明らかではない.本研究では,ヒトiPS細胞ノックインラインを作製し,蛍光タンパク質で標識したヒト網膜視細胞を継時的に生理学的・生化学的に調べ,視細胞移植のために最適な発生段階を同定することを目的とした. <平成26年度>ヒトiPS細胞維持培養系を立ち上げ,遺伝子導入が行えることを確かめた.またCRISPR/Cas9を用いてヒトiPS細胞Crx遺伝子レポーターノックインラインを樹立した.ここでゲノムPCRとサザンブロッティング法によりノックインが完成しているかを確認した. <平成27年度>ノックイン細胞株から網膜視細胞への分化誘導を開始し,蛍光タンパク質がターゲットの視細胞をラベルしていることを抗体染色で確認することができた.さらに,この分化した視細胞が,蛍光フローサイトメトリーにより分画することができ,定量PCR法により視細胞の関連遺伝子を発現していることを明らかにした.この視細胞への分化は,Notchシグナル阻害によって促進し,この現象に関わるシグナルを調べることができた.さらに,パッチクランプ計測により蛍光タンパク質を発現している細胞の機能を調べることができた.(投稿準備中) 今回の実験結果から,ヒトiPS細胞由来の視細胞の分化段階について定量的に調べる方法を確立することができた.今後このノックインラインを用いて,細胞の分化段階が実際の移植の効率にどのように影響するかを調べることができる.
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