研究課題/領域番号 |
26861476
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
小野 公嗣 川崎医科大学, 医学部, 講師 (00548597)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | プロサポシン / 糖蛋白質 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、網膜におけるプロサポシン (PSAP) の機能を解明することにより、網膜色素変性症の病態を明らかにすることである。PSAP はスフィンゴ糖脂質代謝活性化タンパク質であるサポシン (SAP) の前駆体タンパク質である。最近、我々は PSAP 過剰発現マウスが生後 3 週齢頃より網膜色素変性症と類似した視細胞の脱落をきたすことを見出した。本研究では、PSAP 過剰発現マウス (PSAP-Tg) および欠損マウス (PSAP-KO) の網膜について、病理組織学的解析、生化学・分子生物学的解析を行い、網膜における PSAP の機能と視細胞変性の分子メカニズムの解明を行った。 平成 26 年度は、PSAP-Tg および PSAP-KO の網膜を病理組織学的に解析した。PSAP-Tgでは出生時には正常であった視細胞が 日齢21頃から脱落し始め、日齢35までにはほぼ完全に脱落した。電子顕微鏡解析では、PSAP-Tgの網膜において、日齢30に、視細胞の核の凝集、視細胞内節における膜状封入体の存在が観察され、網膜色素上皮細胞ではライソゾーム様の細胞内小器官が増加していた。日齢44では、視細胞が完全に消失し、膜様封入体を含むマクロファージ様細胞の浸潤が多数認められた。光刺激による視細胞死の可能性を考え、暗条件下でPSAP-Tgを飼育したところ、暗条件下でも同等に視細胞は脱落した。一方、PSAP-KOでは病末期の日齢28まで視細胞の変性脱落は認められなかった。以上の結果から、細胞内のPSAP発現量の上昇が視細胞死を惹起することが判った。PSAP-Tgは網膜色素変性症の病態を解明する上で有用なモデルマウスといえる。現在、網膜においてPSAPと相互作用する分子の探索を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成 26 年度の研究実施計画では、(1)PSAP-Tg 網膜組織の組織学的解析、(2)レチノイド代謝系の異常の有無の検討、(3)オートファジーフラックス解析の 3 点から視細胞脱落の原因について解析する計画であった。現在、網膜組織の組織学的解析について電子顕微鏡解析による詳細な観察を行い、PSAP-Tgの網膜では、視細胞の核の凝集、視細胞内節における膜状封入体の存在が観察され、網膜色素上皮細胞ではライソゾーム様の細胞内小器官の増加を確認した。続いて、視細胞変性の分子メカニズムを探索するため、オートファジーフラックス解析に着手しているところである。しかし、レチノイド代謝系の異常の有無については着手できていないことから、研究の達成度はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成 26 年度に引き続いて、PSAP-Tg 網膜におけるオートファジーフラックス解析を行い、PSAP 過剰発現がオートファジーの機能に影響を与えているかどうかについて分子生物学的解析を行う。また、レチノイドを定量的に測定する分析系を構築し、各週齢における PSAP-Tg 並びに PSAP-KO 網膜に存在するレチノイドの量を測定することによりレチノイド代謝に異常がないかを検討する。 次いで、PSAP が引き起こす視細胞の脱落の分子メカニズムの解明のため、PSAP と相互作用する分子の検索を行う。タグ標識した PSAP を発現させるプラスミドを得ており、これをヒト色素上皮細胞株 (ARPE-19 RPE cell line) に導入し、Pull-down assay により共沈してきた分子の同定を質量分析によって行う。同時に、PSAP がレチノイドと直接相互作用がないかについてドットブロット法を用いて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、当初の計画で計上していた学会発表のための旅費を別の経費で支出したため、また研究計画のうちレチノイド測定系の構築に着手できなかったことによるものである。研究計画のうち、PSAP-Tg 視細胞の脱落の原因を病理組織学的に解析するために、電子顕微鏡解析を詳細に行う必要があり、その結果、視細胞内節に膜状の封入体が存在していることが観察できた。その間、視細胞脱落の原因となっている場所の特定を行っていたため、レチノイドを測定するにはいたらなかった。本年度は、前年度に引き続き、オートファジーフラックス解析、レチノイド代謝系の異常の有無を解析し、当初の計画通り PSAP 相互作用分子の検索をする計画である。
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次年度使用額の使用計画 |
レチノイドを定量的に測定する分析系を構築に必要な、カラム、レチノイド標品、溶媒等の試薬を次年度使用額で購入する予定である。また、平成27年度分では、PSAP 相互作用分子の検索のため、蛍光標識二次元ディファレンシャルゲル電気泳動用の試薬、培養細胞株 (ARPE-19 RPE cell line)、相互作用タンパク質の特異的抗体の購入等を計画している。また、25th Meeting of the International Society for Neurochemistry (Cairns, Australia) で研究成果を発表するため、旅費として使用する計画である。
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