研究課題/領域番号 |
26861482
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
坂田 礼 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (00456138)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 正常眼圧緑内障 |
研究実績の概要 |
解析対象患者は組み入れ基準を満たし3年間の経過観察を終了した日本人の正常眼圧緑内障(NTG)患者90名90眼である。 (1)3年間のトレンド解析による視野進行判定とその進行速度:Mean Deviation(MD)値の時間軸に対する回帰直線の傾きが有意に負(P<0.05)の症例を視野の悪化と定義した。 結果:悪化群の視野全体の進行速度をMD slope(dB/year)、視野全体を上下2分割した局所視野の進行速度をTD (total deviation) slope(dB/year)として計算した。進行群のMD slopeは、-1.03dB/year(95%CI:-1.25~-0.82, P<0.001)であり、上方アーケード視野のTD slopeが-1.77dB/year(95%CI:-2.49~-1.05, P<0.001)、下方アーケード視野のTD slopeが-0.71dB/year(95%CI:-0.97~-0.44, P<0.001)であった。 (2)脳脊髄圧に関する検討:NTGでは脳脊髄圧が低いという報告がある(Jonas JB, et al. 2011、2015)。脳脊髄圧の測定体位、比較対象患者の組み入れ基準、そして視神経周囲のくも膜下腔が脳脊髄圧と同じ組成・圧なのか、などの問題が指摘されているが、今回は以下の式:(推定)脳脊髄圧=0.44×BMI+0.16×拡張期血圧-0.18×年齢-1.91 から(推定)脳脊髄圧を算出し、進行群と非進行群で比較を行った。 結果:全体の(推定)脳脊髄圧は10.04±2.76mmHg(95%CI:9.46~10.61mmHg)であった。進行群と非進行群の各値はそれぞれ9.92±2.93(8.76~11.08 mmHg)、10.09±2.71(9.40~10.77mmHg)であり、両群に有意差を認めなかった(P=0.797)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全体の進捗状況に関して述べる。90名で経過観察をスタートし、3年間で27眼が進行と判定され、脱落率は8名(約9%)となっている。多施設共同研究のため、膨大なデータを一律に集めることが難しく、5年間のすべての経時データ回収を行うことができていない状況であある。 昨年の報告に加えて、今回、中間報告としてトレンド解析による局所の視野進行に関して考察を行った。また、NTGの病態を考えていくに当たって、緑内障の病因として近年その存在が重要な役割を果たしていると考えられている脳脊髄圧に関して、探索的な検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
(1)経時データの回収ならびに解析に関する実務遂行には引き続き多くの時間と労力が必要となると考えられる。 (2)経過中の患者側の都合などで、規程通りの間隔でデータが収集できなかった場合でも、データの欠損を最小限にするように、できるだけプロトコールに準じるように周知し、検査を継続してきた。 (3)本研究の第一目的である、NTGの進行リスクファクターに関して、今回の母数を考慮に入れると、多くの共変量を同時に解析に組み入れることには無理があり、適切な共変量の選択が今後の課題と考える。具体的な検討内容としては、屈折に関しては当初はオートレフラクトメーターの値を参考にしていたが、水晶体や角膜の状態に影響される可能性を考慮し、経年変化が少ないと考えられる眼軸長を新たな共変量として選択することも予定としている。さらに、篩状板圧差(眼圧と脳脊髄圧の差)と緑内障との関連も示唆されており、今後の課題としていく。 (4)眼局所や全身のリスクファクターのセクター別視野に与える影響(ベースライン期あるいは経過観察期)を検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(1)長期の観察研究であり、研究成果が出るまでにかなりの時間がかかり、まだ中間報告の段階である、(2)論文化できる水準まで達していない、(3)事務補助が不要であったこと(4)会合などへの旅費が発生する頻度が少なかったこと、などが挙げられる。
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次年度使用額の使用計画 |
(1)研究への会合および研究成果を発表するための旅費、(2)(必要であれば)事務補助、(3)(論文化ができれば)論文関連費用、になどに使用する予定である。
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