研究課題/領域番号 |
26861489
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
長江 秀樹 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 助教 (90468942)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 胎児尿路閉塞 / ボツリヌス毒素 / 胎児治療 / プロテオミクス |
研究実績の概要 |
我々は1999年より胎生60日の尿路閉塞モデル(後部尿道弁モデル)を羊胎仔で作成、3週間後に膀胱-羊水腔シャント手術をおこない閉塞を解除した。腎は約半数で正常形態を示したが、生存した胎仔の膀胱容量が小さいことに気づいた。膀胱は、低容量、低コンプライアンスで、病理組織では、膀胱壁は線維芽細胞が増殖し、筋層は断裂し肥厚していた(Hiroaki Kitagawa, Kevin C. Pringle, Junki Koike; Vesicoamniotic shunt for complete urinary tract obstruction is partially effective, J Pediatr Surg 41;394-402,2006)。この結果は臨床での胎児治療結果と一致し、出生後排尿機能は低下し自己導尿も必要となる事が報告されていた(浅沼宏、宍戸清一郎、佐藤裕之ら:後部尿道弁による膀胱機能障害、小児外科 36;1140-1145,2004)。 近年成人では収縮した筋肉にボツリヌス毒素を用いた治療が各分野で応用され、泌尿器科の分野では難治性の過活動性膀胱などに応用されている。ボツリヌス毒素で膀胱の収縮が抑えられれば排尿機能を維持する事ができるのではないか。新しい胎児治療の可能性を考慮し、現状の萎縮膀胱の改善が出来れば臨床応用可能になると考えた。この萎縮膀胱予防として平成25年膀胱壁にボツリヌス毒素を注入した。生存した胎仔膀胱ではコンプライアンスが得られたが、生存率は低かった。胎児期に最適なボツリヌス投与量が同定できれば臨床応用が期待できると考えた。 本研究は羊を用いた数少ない動物実験である。国内の胎児実験は飼育場の問題もあり、良好な生存率が得られていないのが現状である。また妊娠羊が高価なため、本研究は羊の大国New Zealandで行う。検体はニュージーランド政府からの許可で日本国内に移動している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、正常胎仔に対して膀胱羊水腔シャントチューブを挿入した羊胎仔の膀胱や腎、手術時期の影響を時期の異なる胎仔で調査した。 方法は妊娠羊を用いて在胎60日の群と在胎80日の2群に分け、胎盤血流を保ったまま子宮を切開して胎仔を視野に出し,膀胱に膀胱ー羊水腔シャントチューブを挿入する。その後満期まで妊娠を継続させ、再び帝王切開にて娩出する。出生後全長、体重、膀胱容量、膀胱内圧、それぞれの臓器の病理学的検討を行った。
結果は、胎生60日モデル4匹と胎生80日11匹に対して手術を施工した。全例満期まで生存したが、60日モデルの一匹でシャントチューブが外れたため除外した。全長・体重は60日群平均45cm, 4007g(n=3)と80日群44cm, 3465g(n=11)と差はなかった。膀胱容量と腎臓の大きさはそれぞれ平均2.6mlと1.5ml、腎の大きさ右18.2g左13.6g、右28.8g左13.9gであった。膀胱内圧測定では明らかな差はなかった。病理学的所見では、正常膀胱と比較して共に膀胱壁は収縮肥厚しており、線維芽細胞の増生を認めた。 以上の結果より胎児期の膀胱に対して行う膀胱-羊水腔シャント治療は膀胱を収縮肥厚させ、機能を廃絶させる事がこの研究から示唆された。手術時期により胎児の発育には差を認めなかった。また膀胱容量や膀胱内圧測定の結果、形態の病理学的変化においても差は見られなかった。手術時期の差による病態の変化に影響は少ないことがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の結果を元に、胎生60日と胎生80日モデルを使用する。胎盤血流を保ったまま子宮を切開して胎仔を視野に出し,膀胱に膀胱ー水腔シャントを施行する(Sato Y, Kitagawa H, Pringle KC, et al: Effects of early Vesicostomy in Obstructive Uropathy on Bladder Development. J Pediatr Surg 39(12):1849-1852, 2004)。この後,再び胎仔を子宮内に戻し妊娠を継続する。在胎74日〔2週間後〕で膀胱壁の肥厚を確認後、ボツリヌス毒素(Botox)(1ml,10U/ml)と対照群として生食を1ml膀胱体部の排尿筋に超音波ガイド下にて注入する。注入量はラットにて使われた10単位/kgをそれぞれ注入する。この後、胎児超音波を用いて、注入後5日間の胎児の動きをコントロール群と比較してみる。胎児の生存が確認できた時点で、母羊は農場に搬送して、満期まで飼育する。この自然な環境での飼育は日本ではできない。その後、妊娠を継続させ胎生満期145日まで妊娠を継続し、再度全身麻酔下に帝王切開し、推定体重3kgの胎仔を娩出させる。出生後、膀胱容量を測定し、Pressure Amplifier (Model:PA-100) に3 French (3F) catheter pressure transducer (Model:AS301,Star Medical Inc. Japan, Web:http://www.starmedical.co.jp) を接続し、膀胱のコンプライアンスを測定する。その後、臍帯よりバルビタールを投与し胎仔を安楽死させ、腎臓、膀胱を一塊に摘出する。組織は日本で、H&E (Hemotoxylin & Eosin)、 Masson’s Trichrome、α-SMA (alpha-smooth-muscle actin) などの免疫染色をおこない、膀胱壁の変化、腎への影響を確認する。60日モデルと80日モデルの比較検討を行い、ボツリヌス毒素の胎児への影響を調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
オタゴ大学へ消耗品代金を送金する予定であったが、請求書が届くのが遅く、次年度払いとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
近日中にオタゴ大学へ送金予定であり、その残金から旅費を支払う予定。
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