研究課題/領域番号 |
26861501
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
陶山 淑子 鳥取大学, 医学部附属病院, 助教 (90448192)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脂肪組織由来幹細胞 / 乳房再建 / 再生医療 / 脂肪 / 移植 / 分化 |
研究実績の概要 |
乳癌の乳房温存術後陥凹変形に対し、皮下脂肪組織由来幹細胞(Adipose Derived Stem Cells : ADSCs)を用いた新たな乳房再建法が開発され、我々も2012年より臨床研究に取り組んでいる。そこで本研究では、モデル動物を用いた、より効果的な乳房再建術の開発を目的とし研究を行った。 まず動物モデルの確立として『乳房再建モデルマウス』の作製に取り組んだ。8週齢ルイスラットの皮下脂肪からADSCsを採取し、細断した皮下脂肪と混合後、8週齢ヌードマウスの背中・皮下に移植した。4週間後に、移植片を取り出し、重量測定と移植片内部組織の形態観察により、効果の判定を行った。まず研究の前段階として、脂肪注入量と移植方法の比較を行った。この結果から、脂肪注入量は0.7g、注入方法は臨床と同様の注入器を用いた方法に決定した。続いて、ADSCsと皮下脂肪の混合比の検討を行った。結果、ADSCsの混合量の増加に伴い、残存する脂肪量が増加することを見いだした。さらに移植片を経時的に観察すると、移植後2日後から血管新生が始まり、3日後に顕著に増加することが分かった。続いて、ルシフェラーゼ発光を利用し、移植したADSCsの体内動態のin vivo イメージング解析を行った。遺伝子改変技術を用いて、ルシフェラーゼ(ELuc)を強制発現させたADSCs株を樹立し、乳房再建モデルマウスへ移植した。この結果、ADSCsは移植後17日目まで追跡可能であること、ADSCsは移植部位に限局することが判明した。また、移植したADSCsの多臓器への流入は見られないことが判明した。以上の結果から本年度はモデル動物を用いた実験系の開発に成功した。ここまでの成果を第14回日本再生医療学会総会において発表している。また、現在、新規治療法の開発として、ブースト投与法の確立と、長期安全性の検証を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、臨床研究で行われているADSCsと脂肪の混合移植による乳房再建術の作用メカニズムの解明と、安全性の検証、加えて、より効果の高い移植方法の確立を行うことである。これらの検証には動物モデルを用いることが必須である。このため、本年度はまず乳房再建モデルマウスの作製方法の確立を目標に研究に取り組んできた。この過程で、脂肪の移植量や移植方法、評価項目の確立を行い、モデル動物の確立に成功した。現在は、ADSCsと脂肪の混合比の検討に取り組んでいる。また、平行して、長期安全性検証のための個体の作製やブースト投与法の検討も始めている。加えて、動物個体を生かしたまま、移植したADSCsの体内動態を追跡するために、ルシフェラーゼ発光を利用した、in vivo イメージング実験系の立ち上げも行った。まず、ルシフェラーゼ(ELuc)遺伝子と緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を同時に強制発現するベクターの作製を行った。続いて、構築したベクターをADSCsに強制発現させて、安定発現株の樹立を行った。同時に、このベクターを導入したトランスジェニックラットも作製中で、現在F1個体を作製済みである。さらに、樹立した安定発現株を乳房再建モデルマウスに移植しイメージング実験系の立ち上げに成功した。今後は作製したトランスジェニックラットからADSCsの採取と乳房再建モデルマウスの作製を行い、この個体を使用して、in vivoイメージング解析と移植ADSCsの分化能の検証を行う予定である。以上の結果から、動物モデルとイメージングの2つの実験系の立ち上げに成功したため、研究は順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、乳房再建の新たな治療法の確立としてブースト投与法の検証と、ADSCsの作用メカニズムの解明を中心に、以下の項目の検討を行う。 (1)ADSCsと脂肪の混合比率の検討:ADSCsと脂肪を0:1、1:1、2:1、5:1の比率で混合し、移植する。4週間後に移植片を取り出し、どの混合比率が脂肪量の維持に最適かを判定する。 (2)ブースト投与法の検討:(1)の検討で決定した比率で、初回移植を行った後、一定期間後にADSCsの追加投与を行う。初回移植後から12週間後に移植片の採取と評価判定を行い、脂肪生着が改善するかどうかを検討する。追加投与日や追加投与量、投与回数は別途検証を行い、最適な投与方法を決定する。 (3)作用メカニズムの検証:ADSCsが脂肪量の維持に関与するメカニズムとしては、ADSCsから分泌されるサイトカインによる血管新生や炎症抑制効果とADSCs自身が脂肪細胞や血管へ分化する、2つのメカニズムが考えられる。そこで、サイトカイン効果に関しては、マイクロアレイを用いて、ADSCsと他の臓器由来組織幹細胞を比較し、ADSCsで特異的に発現する遺伝子を同定する。加えて、移植片でのサイトカインの発現を、リアルタイムRT-PCRによって測定する。分化に関しては、作製したELucとGFPのトランスジェニックラットを用いて移植を行う。移植したADSCsを追跡し、分化に関して検証する。 (4)長期観察と安全性評価:ELucとGFPのトランスジェニックラットを用いた乳房再建モデルマウスにおいて、in vivoイメージング解析を行い、移植ADSCsの他臓器への流入が起こらないことを確認する。加えて、乳房再建モデルマウスの3ヶ月~1年の長期観察を行い、癌化の有無等を検証する。また、造腫瘍試験として、NOD/SCIDマウスの精巣にADSCsを移植し、造腫瘍性の有無を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果報告のための旅費が予定額より少なかったため。また、研究補助およびデータ解析の人員を本年度は雇用しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
26年度には、動物モデルとin vivoイメージングの2つの実験系の立ち上げに成功した。この2つの実験系を進めるにあたり、27年度の研究では、試薬等物品費に経費を要するため次年度使用額を一部物品費に利用する。また、27年度は2年間の研究成果を積極的に行うため、次年度使用額を利用することを計画している。
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