本研究において我々は、慢性リンパ浮腫の病態生理に着目し、それに関連する薬物の薬理効果を検証し新規治療法の開発を目指した。具体的には、①慢性リンパ浮腫モデルラットを作成し、②アンジオテンシン受容体遮断薬を始めとした降圧薬の薬理効果に関する検証を試みた。 ①において、既存の報告に準じた手法では安定的な結果が得られなかったため、単純なリンパ流の障害によるリンパ浮腫モデルラットの検証を行った。ラット後肢において大腿基部全周性切開、鼠径・膝窩リンパ節郭清、顕微鏡視下における深部リンパ管の切断、皮膚切開部位内反縫合を行った。この系において、粗大な浮腫は1週程度で回復したが、リンパ流の障害および組織学的変化は1か月以上継続した。しかし、4か月以上経過すると組織学的変化は消失し、深部リンパ管の拡張や静脈への直接的なシャント形成を認めた。ラットにおいて亜急性的なphaseのリンパ浮腫の作成は可能であるが、代償的なリンパ流が形成され慢性リンパ浮腫にはならないことが示唆された。 ②では①で良好な慢性リンパ浮腫モデルラットが作成できなかったため、本学倫理委員会承認のもと慢性リンパ浮腫患者のヒトリンパ管検体の供与を受け、免疫組織学的な解析をした。結果として、炎症に関わるもののうちTNF-αが一定の発症要因において陽性になることが判明した。また、アンジオテンシンII受容体がリンパ管壁で、アンジオテンシン転換酵素がリンパ管内皮で陽性であった。ヒト正常リンパ管の検証が不十分であるが、慢性リンパ浮腫において炎症性サイトカインやレニン・アンジオテンシン系が病態生理に強く関与していることが示唆された。
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