ENaC(epithelial sodium channel)は種々の上皮の頂側細胞膜に局在する。腎臓集合管上皮においてはNaの再吸収を介して血圧調節に関わる。最近、ENaCが創傷治癒に関与していることが報告されている。ENaCの頂側への局在の調節の解明は血圧調節、創傷治癒の解明につながる。成体両生類皮膚は頂側細胞膜に局在するENaCを介し、表皮側から真皮側に向けて皮膚を横切ってNaを輸送している。ENaCは幼生皮膚にも発現しているがNa輸送機構の発現はない。幼生皮膚はENaCを頂側細胞膜に局在させるメカニズムが未分化なのではないかと考えた。幼生から成体への転換の研究は、ENaCの頂側局在の分化のメカニズムの研究となり、それは血圧調節、創傷治癒の研究になる。幼生皮膚を成体皮膚へと人為的に機能分化させる培養条件を用い、ENaCの頂側への局在のメカニズムを研究し、創傷治癒に結びつけようと試みた。 これまでに、幼生皮膚を成体型または幼生型に分化誘導する2条件で器官培養し、表皮のタンパク質を抽出し、2次元電気泳動し、ゲルのディファレンシャル解析を行った。発現差異のある蛋白質を質量分析装置で同定した。その中から炎症調節やシグナル伝達に関わるAnnexin-A1に着目し、抗体を作成した。本年度、作成した抗体を用い発現解析し、次のような結果を得た。幼生の皮膚では、表皮の最上層のアピカル細胞の頂側に発現していた。脂質ラフトでの発現が多かった。成体化に伴い、表皮の基底層を除く細胞の細胞境界に存在し、脂質ラフト以外にも発現してくることが明らかになった。 創傷後Aldosterone添加、Aldosterone+ amiloride(ENaC阻害剤)添加で実験したが、創傷閉鎖速度に有意な差はなかった。創傷治癒に対するENaCの関与を調べるためには、新たな実験系の構築が必要と思われた。
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