研究実績の概要 |
昨年度までの結果より脂肪由来幹細胞(Adipose-tissue derived Stem Cells; ASC)を血管内皮細胞あるいは血管内皮前駆細胞へ分化誘導することは困難であることが明らかになったが、ASCがサイトカインなど血管増殖因子を分泌し、そのトロフィック効果により血管再生を促す可能性が示唆されている。そこで本年度は、モデル動物におけるASCを用いた血管・組織再生効果の検証及びASCを含む脂肪組織と血管内皮前駆細胞の同時移植による脂肪組織生着率への影響を確認した。 潰瘍モデル動物としてラット背部に潰瘍を作成し、昨年度までに確立した調整法に基づき調製したラットASCを移植した。移植後20日までの観察によりASC移植群ではコントロール(生食移植)群に比べ潰瘍閉鎖までの時間が短縮されており、ASCの血管・組織修復及び再生促進への効果が示された。これらの結果は、昨年度明らかにしたASCが分泌するサイトカイン等の血管増殖因子によるトロフィック効果の関与が示唆される。 次に我々が以前より研究を行っている血管内皮前駆細胞(Endothelial Progenitor Cells; EPC)とASCの相乗効果の検証を行う目的で動物実験を行った。ASCとEPCを混合した脂肪を移植することでEPCによる血管新生が移植組織の生着率にもたらす影響を検証した。当研究室で確立された方法によりEPCを骨髄よりKSL(c-Kit+,Sca-1+,Lineage negative)細胞として調製し、さらに当研究室で開発された数と血管再生能を向上させる生体外増幅培養(QQ)法に供したKSL-QQ細胞を用いた。その結果、移植5週後のデータでは脂肪組織とKSL-QQあるいはKSL-QQ+ASC移植群の生着率が有意に高く、EPCの関与が脂肪移植の血管形成において重要であることが示唆された。
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