本研究では低酸素培養における脂肪幹細胞の増殖効果を検討し、そのメカニズムについて解明を試みた。脂肪幹細胞の細胞増殖は低酸素培養にて促進し、その増殖効果はシグナル伝達系の阻害剤で抑制される一方、低酸素下ではこれらの活性化に伴う、HIF-1aの増加が認められた。低酸素培養下ではVEGF と FGF-2 の mRNA 発現と細胞外分泌量は促進したが、両者の増殖因子のうちで ASCs の増殖に影響を与えたのは FGF-2 であることを明らかにした。 FGF-2 遺伝子のHIF-1α結合部位をCHIPAssay により明らかにして、 HIF-1aのノックダウンは FGF-2 の mRNA を低下させることを発見した。従って、脂肪幹細胞の低酸素下の増殖促進機構には HIF-1aの発現を介した FGF-2 の作用が関与することを解明した。本研究から、低酸素下における脂肪幹細胞の増殖促進機構が明らかになった。低酸素下の脂肪幹細胞は増殖が促進し、FGF-2 や VEGF などの増殖因子も多量に分泌することが分かった。これらの低酸素培養法や増殖因子が分泌された培養上清は、今後の再生医療応用への利用に役立 つものと考えられ、研究成果はPLoS One にて論文発表し、日経新聞、他、共同通信ら電子版メディア25 紙に掲載された。さらに、近年あらたに報告された低酸素誘導因子活性化剤であるn-propyl gallate (nPG)を脂肪幹細胞に添加し、nPG 投与により低酸素誘導因子が活性化して、脂肪幹細胞の増殖が促進するというパイロットデータを得た。
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