アシドーシスは心筋β1受容体のカテコラミン反応性を減弱させ、心収縮力を低下させることが知られている。本研究は、β1受容体を介さずアデニル酸シクラーゼを直接賦活化することで細胞内cAMPを増加させ、強心・血管拡張作用を得るコルホルシンダロパート(COLF)のアシドーシス時における心機能改善効果を評価した。 まず、健康ビーグル犬に対してカテコラミン製剤であるドブタミン(DOB)とCOLFの心血管系作用に与える影響を肺動脈カテーテルを用いて比較した。正常時(pH=7.4)ではDOBとCOLFは共に用量依存性に心拍出量および心拍数を有意に増加させ、全身血管抵抗を有意に低下させた。DOBは用量依存性に肺動脈圧を有意に増加させたが、COLFでは変化しなかった。続いて、吸気に二酸化炭素を混合し、動脈血二酸化炭素分圧を100mmHg前後に増加させて呼吸性アシドーシスモデルを作製した。呼吸性アシドーシス時(pH=7.0)では、内因性のアドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミンの分泌が有意に増加し、心機能の亢進が認められた。呼吸性アシドーシス時のDOBおよびCOLFは共に用量依存性に心拍出量および心拍数を有意に増加させたものの、その増加率は正常時と比較して両薬剤とも抑制された。同様に、用量依存性に全身血管抵抗を有意に低下させたものの、その低下率は正常時と比較して両薬剤とも抑制された。DOBは用量依存性に肺動脈圧を有意に増加させたが、COLFでは変化しなかった。呼吸性アシドーシス作製4時間後には血清乳酸値は変化しなかったが、血清イオン化カルシウム値は有意に低下し、血清カリウム値が有意に増加した。 本研究より、呼吸性アシドーシスモデルビーグル犬においてCOLFは肺動脈圧の上昇を伴わずに、用量依存性に心拍出量を上昇および全身血管抵抗を低下させるが、その作用は正常時と比較して抑制されることが明らかとなった。
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