鎮静・鎮痛薬は免疫応答細胞と炎症調節遺伝子の発現に影響を与えることで細胞性・液性免疫を抑制することが基礎研究で明らかになっており、近年周術期免疫抑制との関連が指摘されている。また、癌患者においては ナチュラルキラー(NK)細胞、細胞障害性T(Tc)細胞、ヘルパーT(Th)細胞が抗腫瘍免疫に重要な役割を持つ。特にNK細胞はインターフェロン(IFN)-γの産生によって腫瘍細胞を攻撃するため、鎮静・鎮痛薬によるNK細胞活性(NKCC:Natural Killer Cell Cytotoxicity)の低下によって残存腫瘍の成長を促進させる可能性がある。我々は、頭頸部手術の術後患者を対象に鎮痛薬をフェンタニルとフルルビプロフェンの使用で、NKCCを調査したところ、フェンタニルでナチュラルキラー細胞活性の低下を認めた。フェンタニルによる鎮痛は免疫応答の観点からはフルルビプロフェンに比べて優位性は低く、今後の更なる調査が必要と思われる結果となった。 一方、鎮静薬の種類における免疫応答に関する調査は少ない。デクスメデトミジンはα2受容体アゴニストであり、フェンタニルともフルルビプロフェンとも異なる鎮痛、鎮静作用機序を持つため、免疫学的な影響も異なると予想される。近年、国内におけるデクスメデトミジンの投与期間の適応が拡大されたことから、集中治療領域における鎮静薬の選択肢に挙がることも多くなっているが、デクスメデトミジンの長期投与の免疫学的影響を検討した研究は過去に見られない。 そこで、鎮静薬においても免疫応答に違いがあるかどうかを、プロポフォールとデクスメデトミジンを用いて調査することにした。研究は、臨床倫理委員会への申請手続きまで進んでいるが、まだ申請段階でデータは得られていない。
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