研究課題/領域番号 |
26861520
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
川本 英嗣 三重大学, 医学部附属病院, 助教 (20577415)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | インテグリン / トロンボモジュリン / 凝固と炎症のクロストーク |
研究実績の概要 |
重症敗血症患者の多くは多臓器不全に至り、死亡率は20-30%と現在でも依然として高く、その病態の解明と効果的治療法が切望されている。多臓器不全が起こる背景には、敗血症時にみられる全身性の過剰な炎症と血液凝固の亢進による血管内皮障害とそれに続く播種性血管内凝固症候群(DIC)の2者が生み出す“負の連鎖による臓器障害”が存在する。こうした事実から、これまで敗血症やDICに対して抗炎症・抗凝固作用を有した医薬品の開発が試みられてきたが、その多くは致死率を改善するに至っていない。 近年、抗凝固因子の活性化プロテインC(APC)生成に必要なトロンボモジュリン(TM)の組換え可溶性蛋白(リコモジュリン:rhsTM)が敗血症やDICの有効な治療薬として本邦で臨床応用され、さらに米国ではTMは敗血症に対する治療効果が第3相臨床治験で検討されている。敗血症に対するTMの作用効果は、TMのトロンビンへの阻害作用、APCの生成による抗凝固作用に加え、TMの抗炎症作用が寄与していると考えられている。すなわち、TMが炎症と血液凝固のクロストークを制御する点に帰すると考えられるが、現状ではTMの抗炎症作用の詳細は明らかでない。 本研究では、炎症反応の重要なプロセスである白血球の遊走、活性化を制御する細胞接着因子インテグリンに着目し、インテグリンを介した白血球の接着に及ぼすTMの影響を解析した。我々は独自にTMが白血球インテグリン(CD11a/CD18, LFA-1インテグリン)に結合することを見出した。今後は、両者の結合が持つ生理的役割を解明するとともに、敗血症モデルを利用してインテグリンとTMの結合が病態の形成に及ぼす影響を分子レベルで解析することで、TMの抗炎症作用の一端が解明され、臨床での治療効果最適化に役立つ知見を得ることができると期待する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TM細胞外ドメイン(D123)と抗体の定常領域を融合したリコンビナントTMD123を作成・精製し、ヒト末梢血単細胞(PBMC)との結合を調べ、インテグリンの活性依存的に結合することを明らかにした。 次にインテグリンの関与を明確にするため、β2インテグリン抗体を用いることでインテグリンとTMとの結合が阻害されることを確認した。さらにCD11a, CD11bの抗体を用いることでTMがLFA-1インテグリンと結合することを見いだした。 さらに、TMのいずれのドメインがこの結合に関与しているかを明らかにするため、D1、2、3を欠損させたTMD23、TMD13、TMD12のリコンビナント変異体蛋白質を作成および精製を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で、我々はTMがインテグリンを介して白血球と結合することを新たに見出した。今後はTMのどのドメイン(細胞外ドメインD1,2,3のいずれか)にインテグリンが結合しているのかを検討することで、この相互作用の詳細を解明する予定である。 また、我々の研究は炎症時に白血球が血管内皮上に存在するTMへの結合を示唆したが、この結合が生理的にどのような役割を有しているか今後検討する予定である。そのためにインテグリンとオーセンティックなリガンドとの結合をTMが阻害する可能性、及びin vivo病態モデルを用いて病態形成における役割、炎症部位への白血球の遊走にどのように関与しているかを解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた消耗品(細胞培養の培地、細胞培養用マルチディッシュ)の購入費用が当初の見込みより抑えられたため
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次年度使用額の使用計画 |
1864円は次年度の消耗品の購入費用に充てる。
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