研究課題
抗-ヒストンH1モノクローナル抗体C93-3はヒストンH1への親和性が低いものの、エンドトキシンショックモデルマウスを救命する効果が認められた。本研究の目的は、その作用機序を解明し、敗血症の治療薬を開発するために必要な基礎的データを得ることである。C93-3が認識する抗原の同定: C93-3は血液中に遊離する抗原、または免疫細胞表面に存在する抗原を認識する可能性がある。そこで、マウスの血漿タンパク質、脾細胞の細胞膜タンパク質およびサイトゾル、マウスマクロファージ様細胞RAW 264.7の細胞膜タンパク質を用いてC93-3の抗原を調査した。その結果、hnRNP U、nucleolin、α-actinin 1、α-actinin 4が抗原であることが判明した。同定した3種類の抗原のアミノ酸配列には相同性が認められなかったことから、C93-3は抗原に共通する立体構造をエピトープとして認識すると推定された。α-actininは、自己免疫疾患患者の抗-DNA抗体が交差反応する抗原の1つであることから、C93-3がDNAに反応するかどうか調査した。その結果、C93-3はdsDNAおよびssDNAに反応することが判明した。同定した抗原に対する市販抗体の救命効果を評価: 死細胞から放出された自己DNAとHMGB1やLL37ペプチドからなるDNA複合体は、TLR7やTLR9を刺激し、炎症反応を惹起することが知られている。C93-3はDNAを介してこれら複合体を捕捉することで救命効果を発揮する可能性が考えられた。市販の抗-DNA抗体をエンドトキシンショックモデルマウスに投与し、救命効果を評価した。その結果、市販の抗-DNA抗体投与群の48時間生存率は16.7%で、コントロール群の0%比べると有意な生存率の向上が認められた。しかし、C93-3投与群の48時間生存率70%には及ばなかった。この結果から、C93-3によるDNA複合体の捕捉は作用機序の一端を担うと考える。C93-3のDNA以外の抗原への結合が、作用機序において重要であると推測する。
2: おおむね順調に進展している
C93-3が認識する抗原の同定: α-actinin 1および4、nucleolin、hnRNP U、ssDNA、dsDNAがC93-3の抗原であることを明らかにした。これらの抗原には配列的な相同性が認められないことから、C93-3はこれらの抗原に共通する立体構造をエピトープとして認識することを明らかにした。おおむね研究は順調に遂行できたと考える。同定した抗原に対する市販抗体の救命効果を評価: 市販の抗-DNA抗体をエンドトキシンショックモデルマウスに投与し、抗-DNA抗体の救命効果を評価した。その結果、抗-DNA抗体の救命効果を確認することができたが、C93-3には及ばなかった。C93-3によるDNA複合体の捕捉は作用機序の一端を担うものの、DNA以外の抗原への結合が作用機序において重要であると推測する。DNA以外の抗原についても、市販の抗体を用いて評価すべきであるが、多量の抗体が必要であるため、資金的な問題から実施を断念した。おおむね研究は順調に遂行できたと考える。
活性化したマクロファージは、エンドトキシンショックモデルにおいて炎症反応を惹起する重要な免疫細胞である。LPSによるマクロファージの活性化には、マクロファージの細胞表面に存在するnucleolinが関与するという報告がある。そこで、C93-3がマウス腹腔マクロファージ表面のnucleolinに結合することで、LPSによる活性化を阻害するかどうか調査する。エンドトキシンショックでは、活性化した好中球が産生する活性酸素などによって組織障害が起こり、多くの細胞がネクローシスする。HMGB1は核内でDNAに結合するタンパク質であり、炎症反応を引き起こすdamage-associated molecular patterns(DAMPS)の代表格である。C93-3の抗原であるhnRNP U、nucleolin、histone H1もまたDNAに結合するタンパク質である。これらのDNA結合タンパク質とDNAの複合体は、ネクローシスに伴って細胞外に放出されると推測する。C93-3は複合体中のDNAおよびhnRNP U、nucleolin、histone H1に結合することで複合体を包み込み、HMGB1の遊離を抑制して炎症反応を抑制する働きがあるのではないかと推測する。そこで、過酸化水素等でRAW 264.7にネクローシスを誘導し、培養上清へのHMGB1の遊離をC93-3が抑制するかどうか調査する。敗血症では、好中球のネトーシスによって放出されたneutrophil extracellular traps(NETs)に含まれる物質が、血栓形成の原因となることが知られている。C93-3がNETsの形成を抑制するかどうか調査する。同定したC93-3の抗原について、エンドトキシンショックモデルにおける血中濃度の変遷を調査する。症状の増悪に伴って濃度が上昇する抗原は、炎症に関与する抗原である可能性がある。
学会発表や研究ミーティングのために旅費20万円を計上した。しかし、旅費を使用したのは学会発表の1回だけだったため、当該助成金が生じた。
次年度は、本年度よりも積極的に学会や研究ミーティングに参加する予定である。当該助成金は次年度の旅費に充てる予定である。
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BioMed Research International
巻: 2015 ページ: -
10.1155/2015/491649