研究課題
肺炎球菌の野生株とpfbA遺伝子欠失変異株をヒト末梢血から分離した好中球と混和し、肺炎球菌の生存率を比較した。その結果、pfbA欠失株の生存率は、野生株に比較して43%低下した。一方、好中球にアクチン重合阻害剤であるサイトカラシンDを作用させた後に菌と混和した場合では、野生株とpfbA欠失株の生存率に有意な差は認められなかった。また、菌感染後の好中球の生存率について、トリパンブルー染色により生細胞数と死細胞数の割合を算出したところ、野生株と欠失株で有意な差は認められなかった。これらの結果から、PfbAは好中球による殺菌を抑制する能力を持つことが示唆された。次に、肺炎球菌と好中球を混和し、タイムラプス顕微鏡による経時的観察を行った。その結果、好中球と接触したpfbA欠失株は、1分以内に捕獲され、ファゴソームに取り込まれる過程が観察された。一方、野生株では、好中球と隣接した菌体を5分以上観察しても細胞内に取り込まれる像は認められなかった。さらに、組換えPfbA、ウシ血清アルブミンを表面に固相化した蛍光マイクロビーズ、もしくは未固相化ビーズを好中球もしくは単球と混和し、細胞の蛍光強度の変化をフローサイトメーターにて測定することでビーズの取り込み率を比較した。組換えPfbAを固相化したビーズは、ウシ血清アルブミンを固相化したビーズや、未固相化ビーズと比較して、好中球ならびに単球に取り込まれにくいことが示された。タイムラプス顕微鏡による観察と、蛍光マイクロビーズを用いた実験の結果から、PfbAが直接的に好中球に作用し、貪食を抑制することが示唆された。以上の結果から、肺炎球菌の付着・侵入因子であるPfbAは好中球の貪食に対して抵抗性を示す多機能タンパクであることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
pfbA遺伝子欠失変異株は得られたが、復帰変異株は作製中である。そのため、当初の計画と異なる進行を見せている点はあるが、全体を通して計画にそって研究が進行していると考える。
基本的に年次計画にそって研究を遂行するが、一部実験計画を変更する。PfbAが好中球の貪食を抑制するメカニズムの解明を目指す。まず、肺炎球菌のpfbA遺伝子復帰変異株を作製し、表現型が回復することを確認する。さらに、野生株、pfbA欠失株、復帰変異株について、好中球感染時とマウス感染時における炎症性サイトカイン産生量を比較する。炎症性サイトカイン産生量に差が認められた場合は、活性化された好中球が放出するDNAを骨格とする殺菌機構、Neutrophil Extracellular Trapsの産生量を比較する。次に、貪食が抑制されることから、好中球の異物認識能力が阻害されている可能性が考えられる。そこで、細菌の認識に関わるパターン認識受容体のTLR2とTLR4について、PfbAがそれらの受容体による異物認識に影響するかを検討する。また、PfbAが他のパターン認識受容体、もしくは未知の受容体に作用する可能性が考えられることから、PfbAと相互作用する好中球表層の分子をプルダウンアッセイと質量分析を用いて同定する。PfbAが宿主の受容体を介して炎症応答を抑制することが明らかになった場合、新規の抗炎症物質として様々な炎症性疾患の治療に応用できる可能性が考えられる。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://web.dent.osaka-u.ac.jp/~mcrbio/