前年度の成果から、肺炎球菌の菌体表層タンパクPfbAがin vitroで好中球による貪食回避に寄与することが示された。PfbAの分布を調べるため、ゲノムデータベースに対してtBLASTnを用いた検索を行った。その結果、肺炎球菌のPfbAはmitis群レンサ球菌を含む類縁の口腔レンサ球菌には存在しない一方で、肺炎球菌間では高度に保存されていることが示された。 次に、前年度の成果を踏まえ、PfbAが好中球による貪食を逃れるメカニズムを検索した。Toll-like receptor (TLR) 安定発現細胞を用いた実験から、組換えPfbAの添加によってTLR2を介した活性化が起きることが示された。その一方で、TLR4を介した活性化は観察されなかった。さらに、TLR2/4阻害ペプチドを用いた好中球殺菌試験を行ったところ、肺炎球菌野生株の生存率はTLRの阻害により変化しないが、pfbA遺伝子欠失株では生存率が2倍程度まで増加することが示された。 PfbAがin vivoにおいて病原因子として働くかを調べるため、経気道感染によるマウス肺炎モデルを用いた実験を行った。その結果、肺炎球菌のpfbA遺伝子欠失株において、感染24時間後の肺胞洗浄液中の菌数が肺炎球菌野生株の1/5程度まで低下した。また、肺胞洗浄液中の炎症性サイトカイン量には有意な差は認められなかった。 これらの結果から、肺炎球菌の菌体表層タンパクPfbAは、少なくとも部分的にTLRの働きを阻害することで抗貪食に寄与する病原因子であることが示唆された。
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