研究課題/領域番号 |
26861553
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
溝上 顕子 九州大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (70722487)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | オステオカルシン / インクレチン / 骨 / エネルギー代謝 / 性差 |
研究実績の概要 |
この数年来、骨由来ホルモン、オステオカルシン(OC)が血糖値や脂質代謝の制御に重要な役割を果たしており、その作用に性差があることが明らかにされつつある。我々はカルボキシル化を受けていないOC(GluOC)が消化管ホルモンであるインクレチン分泌を促すことを明らかにした。本研究では、骨・腸・代謝連関の分子機構を解明し、そこに性差が生じる原因を解明することを目的としている。 3T3-L1 脂肪細胞にGluOC を添加するとPPARγの発現が亢進し、アディポネクチンの分泌が促進されることを明らかにした。GluOC受容体であるGPRC6A をノックダウンした細胞、MEK 及び PKA の阻害剤などを用いた実験で GluOC は GPRC6A を介して PKA、Src、Rap1、MEK を順次活性化し、CREB に至り PPARγ とアディポネクチンの発現を促進させていることを明らかにした。雌雄差を検討するため、培地にテストステロンを添加して同様の実験を行ったが、顕著な差は認められなかった。 野生型マウスに10週間継続的にGluOCを経口投与したところ、メスでは膵臓ランゲルハンス島の増大、耐糖能の改善、小型脂肪細胞の増加が認められたが、雄では逆にインスリン感受性低下に伴う耐糖能の低下と脂肪細胞の増大が認められた。これは高脂肪高ショ糖食で飼育したメタボリックシンドロームモデルマウスにおいて顕著であった。GluOCは精巣に作用してテストステロンの合成・分泌を促すことが既に報告されている。実際、GluOCを長期間投与した雄では血中テストステロンが認められた。したがって、GluOCによる代謝活性化効果に性差が生じる原因の一部は血中テストステロン濃度の上昇によるものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
長期間にわたってマウスにGluOCを経口投与する実験を行い、脂肪組織はGluOCによる内分泌作用の主要なターゲットの1つであることを明らかにした。そして、脂肪細胞においてGluOCが GPRC6A を介してアディポネクチンの発現に至るシグナリング経路を明らかにした。 マウスの性別を区別しつつ実験を行ったところ、継続的な GluOC 経口投与は、エネルギー代謝の調節に関わるがその応答には雌雄差があることを明確にした。そして、その原因の1つはGluOCによる血中テストステロン濃度の上昇である可能性が高いことを突き止めた。 GluOCによる全身エネルギー代謝調節機構におけるインクレチン(GLP-1)の役割を解明するためGLP-1受容体欠損マウスを同様に解析し、GluOCの内分泌作用にGLP-1が必須であることを示唆するデータを得ている。 以上のことから、当研究は当初の計画通りおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
マウスに精巣摘出術(ORX)を施してテストステロンの影響を排除し、GluOCの長期間投与実験を行う。また、ORXマウスにテストステロンを継続投与して血中濃度を回復させ、表現型が戻ることを確認する。 また、GLP-1受容体ノックアウトマウス(GLP-1R KO)の解析をさらに進め、GluOCによる代謝改善効果におけるGLP-1の役割を解明する。具体的には、野生型およびGLP-1R KOマウスの膵ランゲルハンス島を単離し、GluOC受容体発現量の比較、GluOCに対する反応性の比較を行う。また、GLP-1R KOマウスに対してGluOC長期間投与実験を行い、全身代謝への影響を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していたホルモン測定ELISAキットの国内在庫がなかったため、購入を次年度に延期した。
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次年度使用額の使用計画 |
研究費は主に研究用試薬(各種ホルモン等測定ELISAキット、実験動物の飼育・飼料費、細胞培養用試薬、一般試薬、プラスチック製品)等の消耗品購入に充てる。また、成果発表のための旅費と、外国語論文の校閲・投稿料を計上する。
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