研究実績の概要 |
本研究では、骨形成に重要な役割を担うBMPシグナルと、炎症性シグナルとして主要なNF-κBシグナルのクロストークを分子レベルで解析し、作用機序を明らかにすることを目的とした。すなわち、BMPシグナルの伝達に重要なSMAD4の核移行とNF-κBのp65サブユニットの相互作用について詳細な解析を行った。これまでの研究からSMAD4のMH1ドメインとNF-κBのTA2ドメインの会合がクロストークに重要であることは明らかにされていたが、分子間の直接的な結合については検討されていなかった。そこで大腸菌発現システムにより、MH1,TA2の両ドメイン領域のリコンビナントタンパク質を調製し、結合実験を行った。これにより両分子が直接結合することを見出した。また欠失変異体を用いた実験から、その結合領域は、TA2ドメイン側で428番目から443番目の16個であることまでつきとめた。この変異体を細胞内に遺伝子導入することでp65によるBMPシグナルの抑制を解除できることを確認した。そこで、このアミノ酸配列に膜透過性亢進配列を付与したペプチドを開発した。合成されたペプチドで処理した細胞では、対照群と比較してMH1ドメインとTA2ドメインの結合を阻害した。またNF-κBによるBMP誘導性アルカリフォスファターゼ活性の抑制も解除した。すなわち、合成ペプチドによるMH1ドメインとTA2ドメイン間結合の競合的拮抗作用により、骨芽細胞分化が促進したことが示唆される。さらにNF-κBシグナルには影響をおよぼさなかった。今回合成した新たなペプチドは、炎症性に生じた骨吸収や様々な疾患に付随する症状としての炎症性骨吸収に対して、有効な作用をもつ分子標的薬となる可能性を秘めている。また生命活動維持に極めて重要なNF-κBシグナルに影響が少ないことから副作用の少ない試薬となりうるため臨床的意義が高い。
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