本年度(平成27年度)は2 型糖尿病が唾液腺の副交感神経性血管拡張反応に与える影響、および2 型糖尿病の既往歴が唾液腺の副交感神経性の血管拡張に与える影響について検討した。実験には自然発症型の2型糖尿病モデルラット(OLETFラット)とコントロールラット(LETOラット)を用いた。ラットはウレタン麻酔し筋弛緩薬で非動化した後、人工呼吸下で管理した。大腿動静脈に挿入したカテーテルを介して体幹血圧の記録と諸種の薬物投与を行った。大唾液腺(耳下腺、顎下腺および舌下腺)を露出させ血流動態をレーザースペックルイメージング血流計を用いて記録した。唾液腺における副交感神経性血管拡張反応は三叉神経の求心性電気刺激により反射性に誘発させた。 糖尿病ラット唾液腺の安静時血流量はコントロールラットと比較して有意に低かった。舌神経刺激は唾液腺に刺激頻度と強度依存性の血管拡張反応を誘発させたが、耳下腺で誘発された血管拡張反応はコントロールラットと比較して糖尿病ラットで有意に低かった。コリナージックアゴニストおよびノンコリナージックアゴニスト(VIP)の投与による唾液腺の血管拡張反応は糖尿病ラットとコントロールラットの間で有意な差は認められなかった。また2型糖尿病を発症したラットに5週間ダイエット食を与えた場合、血糖値が有意に低下し糖尿病の病態に改善が認められたが耳下腺における副交感神経性血管拡張反応の低下は回復しなかった。 以上の結果から2型糖尿病ラットでは唾液腺における安静時血流量および副交感神経性血管拡張反応の低下が認められ口腔乾燥症の発症に関与するメカニズムの1つとして重要であることが示唆された。血管拡張反応の低下は受容体の発現レベルに基づくものとは考えにくく自律神経系の機能障害が想定された。また副交感神経性血管拡張反応の低下は糖尿病の病態改善により容易に回復しない可能性が示唆された。
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