研究課題
糖尿病は代表的な糖代謝異常疾患であるが、近年、糖尿病の新たな合併症として骨粗鬆症が注目されている。インスリン依存性の1型糖尿病では骨芽細胞のインスリンシグナルが不足する事により骨形成が低下する事が知られている。一方、インスリン非依存性の2型糖尿病では『骨量は減少しないが、骨折リスクは上昇する』という特徴がある。その理由として、骨基質が終末糖化産物(AGEs)によって糖化変性し、劣化することで『硬くて脆い』骨になり脆弱性を示すと考えられているが、高骨密度が維持される機序については不明である。我々は、2型糖尿病で血中濃度が増加するAGEsの一つとしてメチルグリオキサール(MG)に着目し、MGが骨芽細胞の分化・石灰化能に及ぼす影響について細胞レベルで解析を行った。in vitroにおける骨芽細胞分化誘導系として、筋芽細胞株C2C12細胞をリコンビナントヒトBMP-2で刺激し骨芽細胞分化を誘導する系を用いた。C2C12細胞はBMP-2で刺激すると、ALP陽性の骨芽細胞様細胞へと分化するが、MGは濃度依存的にALPのmRNA発現を促進した。さらに、BMP刺激後のALP活性もMGの添加により増強された。ALPグルコース取り込み阻害による糖尿病様の糖代謝異常を実験的に再現するためにC2C12細胞を低グルコース環境下で培養したところ、BMP-2刺激後のALP発現は抑制された。一方、低グルコース環境下でも培地中にMGを添加すると、濃度依存的にBMP-2刺激後のALP活性の上昇を強く促進した。以上より、グルコースの代謝産物であるMGはALPの発現および活性化を促進することで骨芽細胞分化を調節すると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
糖代謝異常状態での骨芽細胞分化におけるMGの重要性を確認できた。具体的には、C2C12細胞をBMPで刺激する骨芽細胞分化誘導モデルにおいて、低グルコース環境では骨芽細胞分化マーカーであるALPのmRNA発現が抑制され、ALP活性も低下するが、MGの存在はそれを回復させることを発見した。また、通常のグルコース濃度においてもMGはALPのmRNA発現を促進しALP活性を増強することから、糖代謝異常状態においてのみならず、MGは骨芽細胞分化を調節する可能性を示唆していることを見いだした。
低グルコース環境下と高グルコース環境下において、MGの存在がC2C12細胞のエネルギー代謝経路に及ぼす影響について解析する。さらに、骨芽細胞分化における主要なBMPシグナル伝達経路であるSmad経路、MAPK経路などの細胞内シグナルの変化についても解析し、MGが骨芽細胞分化を調節する機序を明らかにするとともに、MG以外のAGEsが骨芽細胞分化に及ぼす影響についても解析する。次に、ob/obマウスなどの2型糖尿病モデル動物における血中MGならびにAGEs濃度を測定し、骨密度をμCTで解析することでMG、AGEsを中心とした糖代謝異常と骨代謝異常の相関関係を明らかにする。
今年度は種々のAGEsを用いて、AGEsがC2C12細胞におけるBMP誘導性骨芽細胞分化に及ぼす影響についての解析を予定していた。しかし、低グルコース環境下においてC2C12細胞のALP発現とALP活性が低下すること、さらにMGの存在がそれを回復させることが明らかとなり、培地中グルコース濃度とMGが骨芽細胞分化に及ぼす影響を解析するにとどまった。そのため、種々のAGEsの購入に関わる費用ならびに解析にかかる費用を次年度使用する。
MGの前駆物質ならびに代謝産物とされる種々のAGEsを購入する。また、それらのAGEsがBMP刺激後のC2C12細胞の骨芽細胞分化に及ぼす影響として、遺伝子発現および細胞内シグナル伝達の変化を解析するための各種試薬を購入する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (6件) 備考 (1件)
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Http://www10.showa-u.ac.jp/~oralbio/