本研究では、ビタミンC(VC)欠乏の末梢味覚器への影響を明らかにするために、まず、VC欠乏ラットと非欠乏ラットの鼓索神経におけるアミロライド(Ami)を用いた塩味応答及び有機酸を用いた酸味応答解析を行った。その結果、VC欠乏ラットでは非欠乏ラットと比べて、高濃度食塩水、クエン酸、酢酸及び酒石酸に対する応答が低下し、Ami感受性応答成分とAmi非感受性応答成分の割合が変化していた。次に、この変化が味細胞で起きているのか明らかにするために、茸状乳頭味蕾数を調べ、味細胞における味覚関連分子の遺伝子発現量を解析した。その結果、両ラットの茸状乳頭味蕾数の間に差はなかったが、VC欠乏ラットでは、非欠乏ラットと比べ、酸味及び高濃度食塩水の応答に関与するⅢ型細胞のマーカーのCar4とGad1、Ⅱ型細胞マーカーのGnat3、Trpm5やTas1r1の発現量が減少傾向にあったが、低濃度食塩水応答に関与する塩味受容体ENaCα (Scnn1a)、その他の味覚関連分子(Slc1a3、Tas1r3、Plcb2、Pkd2l1、Ncam1 )、ホルモン受容体(Avpr2、Nr3c1)、Nlrp6やVC特異的輸送体SVCT2のmRNA(Slc23a2)の発現量に大きな差はなかった。また、48時間二瓶法にてVC欠乏ラットのクエン酸水溶液に対する嗜好率を測定した。その結果、VC欠乏ラットではVCとともにクエン酸に対する嗜好率が一時的に増加していた。 以上の結果から、VC欠乏により、茸状乳頭味蕾数や味細胞におけるホルモン受容体の遺伝子発現は変化しないが、高濃度食塩水の塩味及び酸味受容を担う味細胞の一部の遺伝子発現が低下し、酸味に対する神経応答が低下し、酸味の忌避性が低下することが示唆された。この変化が欠乏時VCを摂取しやすくさせていると考えられた。また、味細胞においてVC特異的輸送経路が存在する可能性も示した。
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