研究課題/領域番号 |
26861565
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
坂本 貴和子 生理学研究所, 統合生理研究系, 特任助教 (20607519)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 体性感覚 / 痛覚 / 温熱刺激 / MEG / fMRI |
研究実績の概要 |
26年度の研究実施計画では、体性感覚認知処理機構の解明と題し、顎顔面部と口腔内といった三叉神経支配領域へ電気刺激を提示した際の体性感覚誘発脳反応を、脳磁場計測装置(MEG)や機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)などで検討することを目的としていた。MEGを用いた実験では、銀ボール電極と同心円電極を用いて計測を行ったところ、いずれも体性感覚野(SI領域)の顔面部支配領域へ信号源推定されたものの、刺激部位による誘発部位特異性は認められなかった。これはMEG内で頭部を計測ごとに同じ位置へ固定することが困難であること、銀ボールや同心円電極では手の正中神経刺激のような大きな反応が得られにくいこと、といった2つの要因が考えられる。 また、ペルティエ電極を6枚並べたサーマルグリル刺激装置を開発中である。刺激装置への電力ON/OFFのタイミングと、実際に温度を感じるまでのタイムラグをできる限り少なくするべく、現在改良を加えているところである。 さらに本年度は、全身の温度をサーマルスーツにて上昇/下降させた状態(皮膚表面温度が33℃(常温)、38℃(暑熱)、29℃(寒冷)になるように設定)で、抹消(手の甲)へ温度刺激(温熱・冷熱)を提示した際の脳反応を、fMRIを用いて計測した。結果、どの条件においても、前帯状回、島皮質、眼窩前頭皮質などといった、いわゆる情動系といわれる脳領域に強い活動が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
顎口腔顔面領域は、計測部位である脳と近接しているため、電気刺激を用いることで大きなノイズが入る。このデメリットを差し引いても電気刺激にこだわる理由は、ひとえに刺激のonsetのタイミングをタイムロックしやすいことにある。ミリ秒単位の脳活動を計測する脳波や脳磁場計測機では、シビアなタイムロックが誘発脳磁場反応を描出する上で最も重要である。 顎口腔顔面領域の体性感覚誘発脳磁場反応を測定した際に体性感覚野上に刺激部位特異性が認められなかった要因の一つは、頭部の位置固定が不完全であったことが挙げられると考える。MEGは頭部センサーコイル部に頭を挿入すると、通常の日本人の頭部サイズではコイル内で頭部が動いてしまうため、信号源推定の際に多少の位置のずれが生じてしまうことが考えられる。このずれが、信号源推定の制度を落としている原因であると私は考える。 ペルティエ電極を用いたサーマルグリル刺激装置の開発が困難であるのは、ペルティエ電極自体へ電気を流してから温度が上昇/下降するまでのタイムラグがどうしても短縮しにくいことにある。このタイムラグをできる限り短縮し、刺激の立ち上がりを早くする方法を模索しているところである。さらに、サーマルグリル刺激を行った場合、僅かな温度で予想よりはるかに強い痛みを発することが分かった。つまり、刺激強度の調整が難しいといえる。ペルティエ電極による刺激装置の可否についても含め、再度検討が必要であると考える。 全身の温度を上昇/下降ささせた際に手の甲へ温熱刺激を提示した実験は、現状の解析では条件間の差がうまく描出できていない。ペルティエ電極刺激でも触れたが、抹消へ温熱刺激を提示してから実際に温度を認知するまでにタイムラグが生じるため、詳細な情報を解析で描出しきれていないのが理由の一つであると考える。
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今後の研究の推進方策 |
顎口腔顔面領域の体性感覚誘発脳磁場反応の部位特異性を明確に描出するため、シリコン素材のクッション材を用いた頭部位置固定装置の開発を行う予定である。 さらにペルティエ電極を用いた温熱刺激装置に関しては、通電から温度が上昇するまでのタイムラグを計測し、このタイムラグぶんを脳波のトリガーのタイミングをずらして対応することを考えている。しかし温熱/冷熱/温熱/冷熱/温熱 と提示温度をスリット状に入れ替えて刺激を行うサーマルグリル刺激では、温熱を提示する板と冷熱を提示する板で温度のピークに達するタイミングがずれるため、温熱と冷熱で刺激装置を分けるなどし、対応できないか考える。 全身の温度を上昇/下降させた際の実験に関しては、手の甲へ刺激を提示している際を30秒間のブロックとして加算しているが、刺激装置の通電から実際に温度が知覚できるまでのタイムラグを計算し、30秒のブロックの中から加算する箇所を抜き出す方法を考案しているところである。現時点での解析結果では、前述の情動系を含めた様々な箇所が活動している上、温熱刺激を提示した際のデータと冷熱刺激を提示した際のデータを比較すると、明確な有意差が描出できない状況である。そこで、刺激に対し純粋に反応したであろう時間帯を抜き出すことで、温熱提示時と冷熱提示時の差を明確にできればと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験機器の開発・改良に手間取り、謝金の支払いがなかったことが理由に挙げられる。また当初予定していた国内学会への参加が見送りになったため、余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
国内学会への参加を2回に増やし(臨床神経生理学会、日本体力医学会)、余剰を補うこととする。また計画当初より考えていたよりも機器開発の材料費への出費が見込まれることと、ペルティエ電極刺激以外の温熱刺激装置を検討している。現在フィジオテック社のPathwayという装置をレンタルすることができないか検討中であり、もし実験で利用できるようであれば、本装置のレンタル費用を含め、助成金を活用する予定である。
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