わが国の肺炎による死亡数は誤嚥性肺炎を含め年々増加し,現在死因第3位となっている.現在,主たる肺炎起因菌である肺炎球菌に対し,ワクチンによる予防および抗生剤による治療が行われているが,両者とも問題点は多い.以上のことから,現在の肺炎球菌感染症に対しては,細菌―宿主の感染メカニズムの解析結果に基づく更なる感染制御法の検索が重要だと考えた.初年度に行った研究結果より,当初計画していた「肺炎球菌が補体成分を分解することでヒトの免疫システムである補体系の破綻と好中球による排除から回避する」現象が認められなかった.したがって,申請時,研究が当初計画どおりに進まない時の対応として計画書に記載した,肺炎球菌を認識するTLR,好中球の肺への浸潤および肺炎球菌の免疫回避機構に焦点を当てた.肺炎球菌の主要な病原因子であるニューモリシンは,TLR認識と密接な関わりがあり,またその細胞毒性により好中球を破壊することが報告されている.そこで最終年度は,ニューモリシンのリコンビナントタンパク質を作製し,ヒト由来の好中球に対する作用を解析した.その結果,1. ニューモリシンは好中球の細胞膜に結合して破壊し,細胞死を誘導すること,2. 細胞死した好中球はエラスターゼを過剰に分泌すること,3. 一方,肺炎球菌はエラスターゼによって排除されないこと,4. 好中球の細胞死を誘導するためのターゲットとしてP2X7レセプターが考えられること,を明らかにした.一方,好中球におけるTNFα産生誘導は認められなかったことから,少なくともニューモリシン単独ではTLRに認識されないことが判明した.以上の結果より,肺炎球菌はニューモリシンを分泌することで,好中球による排除から逃れることが明らかとなった.得られた結果をもとに,論文を執筆し,国際誌に投稿して成果を世界に問う予定である.
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