研究課題
ホウ素製剤をがん細胞に選択的に取り込ませた後に中性子を照射し、ホウ素と中性子の核反応を利用してがん細胞を選択的に破壊するホウ素中性子捕捉療法(BNCT)では、がん細胞にいかに多くのホウ素製剤を取り込ませるかが重要となる。今回、口腔領域のがん治療で幅広く用いられる抗がん剤であるCDDPおよび5-FUの先行投与によって、ホウ素製剤(BPA)のがん細胞および正常細胞における集積への影響について検討を行った。先ず、がん細胞(SCC7)を移植したC3Hマウスを用いた移植系動物実験を行い、CDDPを体表面積あたり10㎎で連続5日間投与し3日後にBPA投与を行った群と10日後にBPA投与を行った群およびCDDP投与を行わないコントロール群で、がん組織および正常組織(血液・舌・皮膚・脳)へのBPA集積に差が生じるか否かの比較検討を行った。BPA投与1時間後に組織採取を行い、灰化処理を行った後にICP装置を用いてホウ素濃度の解析を行った。がん組織および正常組織において、3群ともBPAの集積に有意な差は認めなかった。次に、がん細胞(SAS)を移植したヌードマウスを用いて、5-FUを15㎎/kg連続5日間投与し3日後にBPA投与を行った群と10日後にBPA投与を行った群および5-FUの投与を行わないコントロール群で、同様にBPA集積に差が生じるか否かの比較検討を行った。正常組織においては、3群ともBPAの集積に有意な差は認めず、舌、血液、皮膚、脳の順に高い集積を認めた。がん組織においては、5-FU投与後10日目にBPAを投与した群とコントロール群では有意差を認めず、5-FU投与後3日目にBPAを投与した群では7~8割程度までBPA集積の低下を認めた。
2: おおむね順調に進展している
研究計画では、先ず細胞実験にてホウ素中性子捕捉療法におけるがん細胞の詳細な細胞死メカニズムを行い、その後に臨床応用を見据えた動物実験を行う予定であった。京都大学原子炉実験所における研究用原子炉が運転停止しており中性子照射の実験が行えず、研究計画の順番が前後したが、動物実験において臨床に役立つ結果を得ることが出来た。
京都大学原子炉実験所にある研究用原子炉の運転が再開されれば、ホウ素中性子捕捉療法におけるがん細胞の詳細な細胞死メカニズム解析の続きを行う予定である。また、5-FU先行投与からの間隔が短ければBPAのがん細胞への集積に影響を及ぼす可能性が今回示唆されたが、中性子照射を実際行い腫瘍の縮小に変化を生じるか否かの確認を行いたいと考えている。
京都大学原子炉実験所において中性子照射実験を行う予定であったが、原子炉の運転が停止されていたため、照射実験の際に購入予定であった細胞培養用物品などの費用が少なくなり次年度使用額が生じた。
京都大学原子炉実験所の研究用原子炉が今年度中に再稼働予定であり、その際は中性子実験をできる限り実施したいと考えている。中性子照射実験の際には、大量の細胞培養の物品購入が必要になると考えられ、今回生じた次年度使用額を有効に使用したいと考えている。
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