先ず、ホウ素薬剤(BPA)を作用後に中性子照射を行った群とX線照射を行った群で、生存率曲線やアポトーシス頻度など基礎データの収集を行った。生存率曲線からD10における生物学的効果比(RBE)は、約2.5から3.0で、中性子照射群細胞群では、X線照射群と比較し効率的にアポトーシス誘導が行われていた。また、照射後の細胞周期の変動に関して解析を行ったところ、等線量2Gy照射時に中性子照射を行った群では、照射後12時間を超えて24時間でもG2/M期において細胞周期の停止を認めた。 次に、移植系動物実験により、既存のBPAがどのようにすれば効率よく腫瘍に集積するのか、その集積を妨げる因子は何であるかの解明を行うこととした。がん細胞を移植したヌードマウスを用いて5-FUを先行投与した群、さらに5-FUの投与をせずにBPA投与を行ったコントロール群で、BPA投与後のがん組織および臓器毎の組織のホウ素集積に差が生じるか否かの検討を行った。各群とも正常組織では有意差を認めず、がん組織においては5-FUを投与し3日後にBPAの投与を行った群でホウ素の取り込みの低下を有意に認めていた。そこで、次に5-FUの先行投与により、ホウ素の取り込みが阻害されるメカニズムを分子生物学的手法を用いて検討した。5-FUで24h処理した群では、G2/M期での細胞周期の停止を認めた。さらに、5-FUを培地中に添加し5日間処理した群と処理を行わない群で細胞周期の比較検討を行ったところ、5-FUで24h処理した群でG2/M期での細胞周期の停止を認め、さらにSubG1に著明な集積を認めることで細胞死(アポトーシス)の誘導が考えられた。これらより、5-FUの先行投与によってホウ素(BPA)の取り込みが阻害されている要因は、腫瘍組織の細胞周期の停止と腫瘍組織内の壊死組織の増加によるアミノ酸代謝の低下と考えられた。
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